えるぼし認定とは?認定基準や申請方法・取得するメリット、認定企業を紹介
女性の活躍を推進している企業が取得できるえるぼし認定は、少子高齢化に伴う人手不足を背景に注目が集まっています。しかし、取得することで企業はどのようなメリットを得られるのか、いまいち理解できていない人も多いはずです。そこで本記事では、えるぼし認定の認定基準や取得するメリット、申請方法などを詳しく解説していきます。
目次
えるぼし認定とは?
えるぼし認定とは、女性が能力を発揮しやすい職場環境を整備した企業を認定する制度です。2016年に施行された女性活躍推進法に基づいており、一定の認定基準を満たした企業には「えるぼしマーク」が付与されます。
ここでは、えるぼし認定の制度内容や制度設立の背景にある女性活躍推進法について、詳細を解説していきます。
えるぼしとは?
えるぼしとは女性の活躍推進に向け、職場環境整備へ積極的に取り組んでいる企業を認定する制度です。厚生労働大臣が認定を行います。
えるぼしマークは、アルファベットのLに由来しており、「Lady(女性)」「Labour(働く、取り組む)」「Lead(手本)」の3つの意味などが込められています。えるぼし認定を取得すると、自社の商品・広告・ホームページにえるぼしマークを掲載でき、自社の取り組みをアピールできます。
えるぼしマークは全部で3種類あり、評価項目の達成度合いに応じて、付与される認定マークが異なります。えるぼし認定を取得した企業は2016年5月時点では74社でしたが、2023年5月には2,235社まで増加しています。
また、えるぼし認定を受けた企業のうち、より高い基準を達成した企業には、プラチナえるぼし認定マークが付与されます。プラチナえるぼし認定を取得するのは難易度が高く、2023年5月時点でわずか40社しか取得していません。
[出典:厚生労働省「女性活躍推進法に係る認定状況(令和4年6月末現在)」]
[出典:厚生労働省「女性活躍推進法による認定状況(平成28年5月31日現在)」]
女性活躍推進法とは?
女性活躍推進法(正式には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)とは、働くことやキャリアアップを望む全ての女性が、能力や個性を発揮できる社会の実現を目指すために制定された法律です。女性が働きやすい社会の実現に向け、2016年に施行されました。
女性活躍推進法は、2025年末までを期限とした10年間の時限立法です。以下3点を基本原則として定めています。
- 女性の新規人材採用及び既存社員に積極的な昇進の機会を付与
- 仕事とプライベートの両立が望める職場環境の整備
- 仕事とプライベートの両立に関して、女性の意思を尊重
また、2020年4月から改正女性活躍推進法が施行され、常時雇用の従業員数が301人以上の企業に対し、情報開示の範囲が拡大されました。併せてプラチナえるぼしの創設もこの改正時に行われています。
そして、2022年4月からは、従業員数101人以上の企業に対しても、行動計画策定や女性社員の活躍状況開示が求められています。
[出典:厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要」]
[出典:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」]
▷女性管理職が少ない理由とは?増やすための取り組みやメリットを解説
えるぼし認定における2種類の認定基準
えるぼし認定には、「えるぼし認定基準」と「プラチナえるぼし認定基準」の2種類が存在します。えるぼし認定は3段階に分かれており、評価項目の達成数に応じて、付与されるマークが異なります。
一方、プラチナえるぼし認定は、えるぼし認定を受けた企業のうち、より高水準の取り組みを実施した企業を認定する制度です。認定基準が厳しくなっているだけでなく、独自の条件が用意されています。
プラチナえるぼし認定を取得した企業は、他のえるぼし認定取得企業と比べても、女性が活躍できる職場環境整備に努めている企業だと言えます。
1.えるぼし認定
えるぼし認定は評価項目の達成数に応じて、3段階のえるぼしマークが付与されます。評価項目と各認定基準について、下記の表にまとめました。
表:評価項目について
評価項目 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
1.採用 | ①:中途採用を含む男女別の採用者と応募者数が同程度 ②:女性正社員の割合が業界平均値を超過 | ①と②、どちらかを達成 |
2.継続就業 | ①:女性社員の平均勤続年数が、男性社員の7割以上 ②:10年以上継続雇用されている女性社員の割合が、男性社員の8割以上 | ①と②、どちらかを達成 |
3.労働時間等の働き方 | ・時間外労働+休日労働の平均時間が、毎月45時間未満 | |
4.管理職比率 | ①:女性管理職の割合が業界の平均以上 ②:昇進した女性社員の割合が男性社員の8割以上 | ①と②、どちらかを達成 |
5.多様なキャリアコース | ①:非正社員から正社員への雇用形態変更 ②:キャリアアップに向けた職種転換 ③:過去に在籍した女性社員の再雇用 ④:30歳以上の女性を正社員として採用 | ①~④を、大企業は2項目以上、中小企業は1項目以上を達成 |
えるぼしの3つの認定段階
えるぼしには大きく分けて3つの認定段階に別れており、それぞれで達成条件が異なります。下記の表で詳しくまとめているのでチェックしてみてください。
認定段階 | 達成条件 |
---|---|
1段階目 |
|
2段階目 |
|
3段階目 |
|
[出典:厚生労働省「えるぼし認定、プラチナえるぼし認定」]
[出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」]
2.プラチナえるぼし認定
プラチナえるぼし認定とは、えるぼし認定を受けた企業のうち、さらに高い認定基準を達成した企業を評価する制度です。プラチナえるぼし認定を取得するためには、下記の条件を全て満たす必要があります。
表:評価項目
項目 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
1.採用 | えるぼし認定と同じ基準 | |
2.継続就業 | ①:女性社員の平均勤続年数が男性社員の8割以上 ②:10年以上継続雇用されている女性社員の割合が、男性社員の9割以上 | ①と②、どちらかを達成 |
3.労働時間等の働き方 | えるぼし認定と同じ基準 | |
4.管理職比率 | 女性管理職比率が、業界平均の1.5倍 | <1.5倍後の数字が15%以下の場合> 管理職に占める女性労働者の割合が15%以上<1.5倍後の数字が40%以上の場合> 管理職に占める女性労働者の割合が正社員に占める女性比率の8割以上 |
5.多様なキャリアコース | えるぼし認定と同じ基準 |
[出典:厚生労働省「えるぼし認定、プラチナえるぼし認定」]
プラチナえるぼしにもえるぼしと同様に独自の認定基準が設けられています。それぞれの認定基準は下記の通りです。
- 5つの評価項目を全て達成
- 行動計画に基づく内容の実施と目標の達成
- 男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任
- 女性活躍推進法に基づく情報公表項目のうち、社内制度の概要を除き8項目以上を女性の活躍推進企業データベースで公表
えるぼし認定を企業が取得するメリット
えるぼし認定取得によって、企業が得られるメリットは主に3つあります。
企業ブランドのイメージ向上
えるぼし認定を取得することで、自社のイメージアップにつなげられます。「女性のキャリアアップを支援している優良企業」といったイメージを印象付けられ、女性求職者の関心を高められます。
多くの求職者から求人の応募が期待でき、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。また、自社ブランドのイメージアップに伴い、顧客から共感を得られやすくなる点も、大きなメリットです。
顧客は自社商品やサービスの利用に、特別な価値を見出すようになり、利益・市場での優位性・リピーターの獲得が望めます。
▷フューチャーセッションとは?ダイバーシティ実現への効果や実施方法
公共調達での優遇措置
えるぼし認定を受けると、国や地方自治体から高い評価を獲得でき、他社との競争において優位性を得られます。システム開発や建設工事など、入札形式で国や地方自治体から仕事を受注する企業にとっては、大きなメリットです。
公共調達のうち、各府省が価格以外の要素を評価する調達(総合評価落札方式・企画競争方式)を行うときは、契約の内容に応じて、「えるぼし」認定企業は加点評価されます。
[引用:厚生労働省「女性活躍推進法が平成28年4月1日から施行されました!えるぼし認定企業になりませんか?」より]
また、日本政策金融公庫の助成金を通常より低金利で利用できる点も、メリットです。働き方改革推進支援資金の利率を最大0.65%下げられ、返済額を大幅に削減できます。働き方改革推進支援資金は、従業員の待遇改善や保育園の建設などに利用できる助成金です。
従業員のモチベーションアップ
えるぼし認定の取得=働きやすい職場環境構築の意味合いも持ちます。実際、評価認定に含まれる残業時間削減やキャリアプランの選択肢拡大は、従業員が長期間働く上で欠かせない内容です。
認定基準を満たすことで、男女ともに働きやすい職場環境の整備につながり、従業員のエンゲージメントが高まるでしょう。企業への信頼度も高まることで、優秀な人材の確保や生産性向上が期待でき、組織力強化を図れます。
▷インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いや意味・背景をわかりやすく解説
えるぼし認定のデメリット
えるぼし認定を受けることで企業のブランディングや従業員のモチベーションアップなどの様々なメリットがあり、基本的に取得することによるデメリットはないと言って良いでしょう。
しかし、認定を受けるために女性社員が望んでいないことをしてしまう可能性がある点については注意しなければなりません。
女性が働きやすい環境を整備するのが目的であるため、本末転倒につながってしまいます。そのため、社員の希望をしっかりと汲んだ上で認定に向けて取り組んでいくようにしましょう。
えるぼし認定の申請方法
えるぼし認定を取得するためには、以下の流れに沿って手続きを進めていきます。
- 自社の状況把握と課題分析
- 行動計画策定
- 都道府県労働局へ行動計画提出
- 「女性の活躍推進企業データベース」へ登録
- 都道府県労働局へえるぼし認定を申請
1〜5の各ステップで行うべき内容を下記の表にまとめました。
手順 | 項目 | 算出方法や具体例 | 備考 |
---|---|---|---|
ステップ1:状況把握と課題分析 | 採用した労働者の女性比率 | 女性採用者数÷採用者数×100 | 雇用形態ごとに把握 |
平均継続勤続年数の男女比 | 女性の平均勤続年数 ÷男性の平均勤続年数 | 雇用形態ごとに把握 | |
月別の平均残業時間数 | 毎月の(時間外労働+休日労働)÷労働者数 | ||
管理職に占める女性比率 | 女性管理職数÷管理職数×100 | ||
ステップ2:行動計画策定 ※社内通知も行う |
|
|
|
ステップ3:.都道府県労働局へ行動計画提出 ※社外公表も行う |
| ||
ステップ4:「女性の活躍推進企業データベース」へ登録 | 「女性の活躍推進企業データベース」へ登録 | データベースへ掲載した内容は、1年に1度は更新 | |
ステップ5:都道府県労働局へえるぼし認定を申請 | 一定の要件を満たした場合に認定(3段階) |
えるぼし認定の取り消しについて
えるぼし認定を受けた後、下記3つのケースに合致する場合は、取消しの対象となります。
- えるぼし認定の取得後、基準項目を満たせなくなった場合
- 女性活躍推進法または同法に基づく命令に違反した場合
- 不正手段を使ってえるぼし認定を取得した場合
えるぼし認定は、女性活躍推進法に基づく制度なので、女性活躍推進法違反に該当する行為を実施した場合、認定取り消しの対象となります。また、えるぼし認定を取り消されると、3年間は再取得の申請ができません。
▷マミートラックの意味とは?問題点や退職・転職を防ぐための対策について
▷ダイバーシティと女性活躍推進の関係性|課題や女性活躍推進法について
えるぼし認定とくるみん認定の違い
えるぼし認定は、女性が活躍しやすい職場環境を整備した企業を認定する制度です。一方、くるみん認定は、仕事と子育ての両立が望める職場環境を整備した企業を認定する制度です。
くるみん認定は、「次世代育成支援対策推進法」に基づいた制度です。評価基準も、フレックスタイム制の導入・男性の育児休業取得率向上・残業時間削減など、ワークライフバランスを意識した内容が目立ちます。
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。この認定を受けた企業の証が、「くるみんマーク」です。
[引用:厚生労働省「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて」より]
えるぼし認定とくるみん認定は、働きやすい職場環境を目指すといった点は一緒です。ただし、えるぼし認定は女性の活躍支援に特化した制度です。子育て支援を目的としているくるみん認定と比べると、制度内容や評定基準が異なります。
▷くるみん認定企業とは?認定条件・申請方法やマーク取得のメリットを解説
▷パタニティ・ハラスメント(パタハラ)とは?具体事例や原因と対策について
えるぼしに認定されている企業の一覧
2023年度5月時点でえるぼしに認定されている企業は下記の通りです。(一部抜粋)
- 株式会社イオン銀行
- ソニーグループ株式会社
- 株式会社日立ソリューションズ
- 株式会社リコー
- 野村信託銀行株式会社
- コスモ石油株式会社
- 株式会社イトーヨーカ堂
紹介している企業はほんの一部になりますが、業種や職種を問わずにさまざまな企業が認定されているのがわかります。
えるぼし認定企業を目指して女性の活躍を推進していこう
えるぼし認定は、女性が活躍しやすい職場環境を整備した企業を認定する制度です。主な評価項目は、女性従業員の割合・勤続年数・管理職比率などです。えるぼし認定を取得できると、自社のイメージアップを図れます。
「女性のキャリアアップ支援に積極的な企業」との印象を世間に与えられ、優秀な人材の確保・リピーターの増加・利益の拡大が期待できます。今回の記事で挙げた認定基準や申請の流れを参考に、えるぼし認定の取得を目指し、職場環境の改善に努めてみてはいかがでしょうか。
ダイバーシティの記事をもっと読む
-
ご相談・ご質問は下記ボタンのフォームからお問い合わせください。
お問い合わせはこちら