【解説】女性管理職比率の現状と向上で得られる6つのメリット
女性の社会進出が進むにつれて女性の管理職も珍しくはなくなったものの、男女比の実態はどうなのでしょうか。本記事では、女性管理職の比率に関する現状を解説するほか、組織内に女性管理職が増えることで得られるメリットなどを紹介します。
目次
女性管理職比率の現状
日本の女性管理職比率は、2020年に政府が発表した男女共同参画白書(令和3年版)では、民間企業の女性管理職比率は13.3%となっています。
少しずつ増加傾向にあるものの、政府が掲げた目標である2020年までの「女性管理職比率30%達成」の数値を大きく下回る実態であること、また、欧米の国々が軒並み30〜40%である点を考えると、かなり低い水準であることがわかります。
女性管理職の増加に関しては、国内全体で必要性の意識が高まりつつある一方で、実際の取り組みについては、順調とは言い難いのが現状といえるでしょう。
世界の女性管理職比率
世界各国の女性管理職比率を詳しく見てみると、アメリカやスウェーデンでは女性管理職比率が40%を超え、フランス・イギリス・ノルウェーも30%以上の比率となっています。また、調査対象国で1位の数字を残したフィリピンに至っては、女性管理職比率が50%を超えていました。
一方、女性就業者比率を比較すると日本は44.5%で、フィリピンの38.5%よりも高い比率となっており、上記で挙げたそのほかの国々とも数%ほどしか差はありません。
つまり、世界各国と比較しても同程度の労働者の男女比であるにもかかわらず、日本の女性管理職比率だけが伸びていない結果となっているのです。
なぜ女性管理職の登用は少ないのか?
女性管理職の登用が少ない理由として、以下4つが挙げられます。
- 管理職へのネガティブなイメージ
- 出産や育児を優先
- プライベートな時間の確保を優先
- 社会全体で旧来的な性役割が蔓延
一つひとつ内容をみていきましょう。
管理職へのネガティブなイメージ
管理職は一般社員と比べて給与面がさほど変わらないにもかかわらず、「心身両面で消耗するハードな仕事」と、ネガティブなイメージが根付いています。このようなイメージが根付いた理由のひとつには、「仕事量の増加」が挙げられるでしょう。
管理職には、自身の業務をこなしつつ、部下の仕事の進捗状況を把握したり、指導したりする役目が求められます。つまり、組織内の人員に余裕がない限りは、「プレイングマネージャー」として働かないといけず、限られた時間でより多くのタスクをこなさなければならない状況になってしまうのです。
その結果、業務量や責任が大きく増えるのに対して待遇面はさほど変わらないなど、デメリットばかりが注目されてしまう傾向があります。
出産や育児を優先
出産や育児は、女性にとってライフステージの大きな変化を伴うライフイベントです。
従業員のワークライフバランスの向上は、今でこそ「重要な課題」として多くの企業が取り組みを行っていますが、それでも、家庭との両立を望める職場環境が整備されている企業は決して多くありません。
育児休暇が取得しづらい、育児との両立ができる勤務形態の選択肢がない、復職後のキャリアパスが描けないといった労働環境の場合、家庭を優先して退職や非正規雇用への雇用契約の変更を余儀なくされる従業員もいます。
このような組織の体制は、女性従業員自身が管理職への登用を望まない、あるいは、職務を継続することが困難となる背景といえるでしょう。
プライベートな時間の確保を優先
近年は、仕事よりもプライベートを優先する仕事観を持つビジネスパーソンも増えています。仕事を「キャパシティの範囲内」で行い、プライベートの時間を大切にしたい人にとっては、仕事量や残業時間が増えることの多い管理職は魅力的に感じられず、ステップアップ自体を望まないという人も少なくないのです。
このような「そもそも管理職にはなりたくない」といった意識が生まれてしまう原因には、組織内に女性管理職のロールモデルがなく、管理職になった場合の働き方が想像できないといった背景もあります。
根強く残る旧来的な性役割の認識
男性=仕事、女性=家事といった旧来的な性役割が、日本社会全体に強く残っている点も、女性の管理職比率が伸びない原因として挙げられます。依然として男女の賃金格差は是正されておらず、その結果、多くの場合において、出産後は女性がキャリアを追求するよりも、男性が働く方が高い収入を確保できるのが現状です。
女性の社会進出が進んでいるにもかかわらず、「育児は女性の仕事」といった無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)は未だ根強く残っており、これらは組織内の「男性育休取得」への理解の低さにもつながっています。
女性管理職比率を向上させるために取り組むべき課題
次に、女性管理職比率を高めるために実施すべき対策について解説します。
ワークライフバランスの確立
育児休業制度やフレックスタイム制、リモートワーク制度、短時間勤務制度など、家庭と仕事が両立しやすい勤務形態や制度を拡充することが重要です。また、これらの制度を性別に関係なく、かつ気兼ねせずに利用できる組織風土を醸成しておくことも忘れてはなりません。
在宅勤務などの柔軟な働き方の導入は、女性管理職を登用しやすくなるだけでなく、従業員のワークライフバランスの向上・コスト削減・優秀な人材の流出防止など、従業員と企業の双方に多くのメリットをもたらします。また、「社員を大切にするホワイト企業」との印象を与えられるため、企業のイメージアップや入社希望者の増加なども期待できるでしょう。
表:在宅勤務導入のメリット
社員 | 企業 |
---|---|
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管理職のイメージ向上
仕事量や責任の増加・残業時間の増大など、管理職に定着しているネガティブなイメージを払拭することも大切であり、実際にそのような労働環境なのであれば、組織の体制を抜本的に見直す必要があるでしょう。
部下を取りまとめる責務を担う管理職の責任が増大するのは、ある意味で当然ですが、「量的」に部下よりも働くのが当たり前といった風土や組織体制、また、責任に見合わない処遇などは、早急に改善すべきといえるでしょう。
女性社員の育成
管理職として働くイメージができる環境整備と人材育成も取り組むべき課題です。スキルアップのための研修制度を充実させて、管理職に登用可能な女性の従業員層を厚くしていくこと、また、女性管理職について社内外に向けた情報発信を積極的に行い、働くイメージや挑戦しやすい環境作りを進める必要があります。
女性管理職に求められるスキル
女性管理職に求められるスキルは、以下の3つです。
- コミュニケーション能力
- 感情のコントロール
- 多種多様な視点
これらのスキルを高いレベルで兼ね備えているビジネスパーソンは、性別問わず多くはありません。管理職の仕事を通じて、各スキルを磨いていく意識が必要になってきます。
コミュニケーション能力
チームの仕事状況を正確に把握することは、管理職に求められる重要な仕事のひとつです。そのため、管理職にはスキルや能力のほか、性格などのパーソナリティが異なる部下の特徴を把握し、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを取る能力が求められます。
例えば、上下関係や仕事の成果を重視する部下に対しては、最終的な責任の所在を明確にしたうえで、ある程度の裁量を伴う業務を任せた方が、モチベーションが向上することがあります。
一方、営業などのサポート業務など、成果を「縁の下」で支える仕事が多い部下に対しては、普段から仕事ぶりを評価する言葉がけを意識しておかなければなりません。このように、一人ひとりの個性や状況に合ったコミュニケーションが求められます。
感情のコントロール
女性管理職だけに限った話ではありませんが、チームや職場の雰囲気は、管理職の人柄によっても大きく変わります。
人間である以上、相性が「合う・合わない」はあるものの、部下が管理職の感情に振り回されているようでは、チームの生産性は上がりません。それどころか、離職によって人材を失う事態にも発展してしまうでしょう。
部下は、上司の表情・行動・言動に常に注目しています。感情の起伏が大きいと「今は機嫌が悪そうだから後で報告をしよう」、「今話しかけても相談に乗ってもらえるだろうか」など、周囲に余計な気を使わせる形となり、業務の進捗にも営業が出てしまいます。
多種多様な視点
幅広い視点と視野でマネジメントを行う能力も、女性管理職に期待されている能力の一つです。同じ職場で仕事をしていても、自身に与えられた業務に満足している人もいれば、そうでない人もいます。また、個々が抱えるプライベートな事情もあるでしょう。
働き方だけでなく評価基準や評価方法の透明性を保つなど、実力や意欲を発揮しやすい職場作りは、モチベーションや仕事観はそれぞれに異なることを理解したうえで体制を整え、実行することが重要です。
女性管理職比率の向上による6つのメリット
女性の管理職を増やすメリットは以下の6つです。
- 女性の能力を活かせる
- 社員のモチベーションが上がる
- 優秀な人材が集まる
- 離職者が出にくい環境になる
- 多様性のある企業になる
- 企業のイメージが良くなる
一つひとつ内容をみていきましょう。
1.女性の能力を活かせる
女性は、コミュニケーション能力・協調性・観察眼に優れている傾向にあるといわれています。周囲との調和を意識したうえでの分析や提案が組織内で生まれやすくなる点は、ダイバーシティ推進に向けても効果的でしょう。
2.従業員のモチベーションが上がる
女性管理職の活躍によるロールモデルの確立は、女性社員が将来的に管理職を目指すきっかけとなり、後進の成長に大きく貢献するでしょう。キャリア志向の女性従業員のモチベーションアップが期待できるだけでなく、出産・育児で一時的に職場を離れる女性従業員もキャリアパスが描きやすくなります。
3.優秀な人材が集まる
女性が働きやすい企業イメージは、人材の確保にも役立ちます。共働き世帯が過半数を超える現代社会においては、ライフステージが変化しても無理なく働き続けることができ、かつ、キャリアアップも可能な企業体制は、求職者にとっても非常に魅力的な条件となることは間違いありません。
4.離職者が出にくい環境になる
女性管理職の比率を高めるためには、職場環境の再整備も必要です。在宅勤務やフレックスタイム制の導入、有給休暇取得率向上・時短勤務・残業時間の削減など、働きやすい職場環境の整備は、出産や育児だけでなく、親の介護といった個人的な事情を抱える従業員の離職防止に有効な手段です。
また、これらの取り組みはワークライフバランスの向上にもつながるため、企業へのエンゲージメントが高まることによる離職率の改善も見込まれます。
5.多様性のある企業になる
管理職における性別の偏りが是正されることは、多様性に富んだ組織の形成にもつながります。仮に管理職が全員男性だった場合、グループシンクに陥る可能性が生じます。グループシンクは集団での合意形成を急ぐあまり、物事を多角的に見る視点が欠如している状態のことです。
同じ意見を持った者同士が集まるため、リスクを評価する視点が欠けやすく、自社にとって間違った決定が容認されやすい状態になります。女性管理職の登用によって多様性に富んだ組織を構築できれば、グループシンクに伴う誤った判断を防げます。
6.企業のイメージが良くなる
女性が能力を発揮しやすく、かつ、誰もが平等に働くことのできる職場づくりへの取り組みは、SDGsの観点からも高い評価を得ることが可能です。これらのイメージ拡大は、社会的な地位の確立のほか、自社商品の認知度向上・競合他社との差別化・優秀な人材獲得など、多くのメリットが望めます。
女性管理職の登用によるデメリット
女性管理職登用のデメリットには、結婚や出産などのライフイベントによる退職や一時的な離職が、男性に比べて多い点が挙げられます。
結婚による居住地変更に伴う退職は、在宅勤務の導入により組織内の体制によって対応ができますが、「収入面」への懸念から女性がキャリアを諦める場合においては、組織で改善策を準備することが難しい場合もあります。男性育休の取得率向上、男女間の賃金格差の是正は、社会全体で推し進める課題と言えます。
女性管理職登用の取り組み事例
最後に、女性の活躍推進や管理職比率向上に向け、様々な取り組みを行っている企業事例を5社紹介します。
朝倉染布株式会社
朝倉染布株式会社は、スポーツウェアや水着に利用する生地を製作している企業です。明治時代から続く歴史ある企業ですが、変化を恐れず、女性が働きやすい環境整備を進め、2017年に女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定で最高位の3つ星を獲得しました。
同社が行った取り組みは、重量物を扱うことも多く、長年男性社員の聖域とされてきた生産現場での女性の登用と労働条件の見直しです。
電動バッテリーカーの導入で運搬業務を自動化し、染色や加工に集中できる環境を整備しました。また、育児や介護に伴う離職を防ぐため、育児休業・短時間勤務・フレックスタイム制の利用期間を延長しました。
育休・産休者へのフォロー体制も用意されており、休業明けの職場復帰への不安も最小限に抑えています。取り組みの結果、管理職として活躍する女性が在籍するほか、出産後に職場復帰しやすい環境の構築などを実現しています。
シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社
シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社は、創薬研究のサポートを行っている企業です。同社が行った取り組みは、社員同士が互いに助け合う企業文化の育成です。
「妊娠・出産・育児」や「介護」を別々のものとしてとらえるのではなく、誰もが直面する可能性のあるライフイベントとして考え、仕事と両立しながら乗り越えられるよう制度の拡充を図っています。さらに、女性活躍推進ワーキングチームを社員主導で立ち上げ、女性社員が抱えている悩みや不安をヒアリングし、フィードバックを社内全体で共有しました。
結果、互いの事情を理解し合う企業文化が醸成されただけでなく、制度利用率向上や女性社員の不安軽減につながっています。また、管理職育成を長期的な視点に基づいて進めており、課長職に就く女性社員のロールモデル化も積極的に進めています。
有限会社エス・エイチ・シー
有限会社エス・エイチ・シーはグループホームの運営など、介護福祉事業を専門とする企業です。同社は従業員の半数以上が女性である一方で、女性の管理職比率が低い現状にありました。
その中で、育児休業や短時間勤務など、各種制度を利用しやすい環境整備や管理職向けの研修を定期的に開催し、制度内容の理解向上や業務体制の再整備を図っています
また、育休中の女性従業員が利用できる相談窓口を設け、キャリアプランを具体的に描けるような取り組みも実施。現在では個々の事情に合わせ、出勤時間を自由に設定できる体制が構築されています。
このような取り組みの結果、女性管理職比率は50%を超え、福岡県内の中小企業で初めての「えるぼし」を獲得しました。
ホーム株式会社
ホーム株式会社は、コーヒーマシンのレンタルや飲食販売など、オフィス向けのサービスを展開している企業です。同社は全従業員数20名のうち女性の営業社員が2人と少なく、女性の雇用促進を目標に掲げていました。
まずは、女性求職者からの応募を獲得できるよう、女性社員のインタビュー動画を合同説明会で流すなど、採用活動の見直しを実行。また、ノー残業デーの設定やスキルアップ研修を導入し、仕事とプライベートを共に充実できる労働環境の整備も並行して進めました。
組織全体で女性が活躍しやすい職場環境を作る意識を高めつつ、女性社員採用や育成強化を図る動きを継続的に実施しています。
株式会社エコリング
株式会社エコリングは、日用品からブランド品まで不用品の買取サービスを展開している企業です。長期的な視点での女性管理職を増やす取り組みとして、女性の雇用促進のほか、キャリア面談や在宅勤務の導入を行い、女性が働きやすい職場環境の整備を実行に移しています。
さらに、仕事に意欲的な女性社員がチャレンジできるよう、全社共通の人事評価制度を導入。個々のライフスタイルを保ちつつ具体的にキャリアプランを描ける環境が整い、エンゲージメント向上や、ライフイベントによる離職の防止といった効果を得ました。
また、女性活躍推進に向けた取り組みが評価され、えるばしの最高評価である3つ星を獲得しました。このような功績を積極的に社外へアピールをすることで、さらなる女性社員の採用率向上につなげています。
女性管理職比率の向上には現状を把握することが必要
日本企業における女性管理職比率は10%台前半に留まっており、世界の女性管理職比率上位国と比べて20%近く低い水準となっています。
業務負担が増えるだけの名ばかりの管理職といった組織体制の改革、無意識な思い込みによる性別役割分担意識の払拭、管理職登用可能な人材の育成といった課題を解決できない限り、女性管理職比率を高めることは困難です。
今回の記事で紹介した内容や企業の成功事例を参考に、女性管理職比率向上に向けた職場環境の整備を進めてみてはいかがでしょうか。
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