人材ポートフォリオとは?作り方や重視される理由・メリットを解説
近年作成の重要性が叫ばれる、「人材ポートフォリオ」。欧州やグローバル企業においては既に普及が進む人材ポートフォリオについて、重視される理由や作り方、作成することでどのようなメリットが得られるのかを見ていきましょう。
目次
人材ポートフォリオとは?
人材ポートフォリオとは、経営戦略に基づいて配置された人材の構成をあらわしたものです。
具体的な構成は下記の通りです。
- どこに(部署・役職)
- どういった人材が(スキル・特性・職種)
- どのくらい(人数・在籍年数)
在籍しているのかを可視化し、目標に基づいた「適材適所」を実現することで生産性や企業価値の最大化を目指すためのツールと考えると良いでしょう。
また、人材ポートフォリオは、人的資本を分析することで、採用計画立案や人材育成、評価などの人事戦略に活用することができ、中長期的な人事マネジメントにおいて不可欠なツールとして近年注目を浴びています。
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人材ポートフォリオが重視される理由とは?
少子高齢化や働き方への価値観の変化などにより、企業における安定的な人材の確保は、年々、困難になっています。そのため、限られた人員での生産性や効果の最大化は、業界や職種を問わず喫緊の課題と言えるでしょう。
このような背景を含め、なぜ近年特に人材ポートフォリオが注目されているのでしょうか。
人材版伊藤レポートによる作成の推奨
人材版伊藤レポートとは、経済産業省が2020年から全6回にわたって開催した「人的資本経営の実現に向けた検討会」の内容をとりまとめたものです。検討会では、一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏が座長を務めたことから、通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれています。
この人材版伊藤レポートでは、目標とする経営戦略の実現において、社員一人ひとり活躍できる人材ポートフォリオ(動的人材ポートフォリオ)が構築できているかが、人材戦略において重要であるといった内容が書かれています。
[出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~」]
人的資本情報開示の義務化への対応
人材ポートフォリオが必要なもう一つの理由は、世界的に人的資本の情報開示をする動きが高まっているためです。
人的資本の情報開示とは、企業が持つ人的資本の情報を、社外に公開する一連の取り組みを指しています。2022年8月に内閣官房より上場企業向けのガイドラインとして発表された「人的資本可視化指針」では、開示項目として「人材育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス」の7分野・19項目が示されました。
人的資本の情報開示は、2023年3月期決算から上場企業を対象に義務化されたことから、人材ポートフォリオの関心も急速に変化したと考えられます。
人材ポートフォリオ作成のメリット
人材ポートフォリオを作成するメリットは3点あります。
人材配置を最適化できる
人材ポートフォリオで、従業員それぞれの強みや弱み、目指すキャリアなどが可視化されるため、最適な人材配置が行えます。
また、業務に適した人材の配置は、生産性向上やモチベーションの維持につながるでしょう。その結果、高効率での目標達成が実現できるだけでなく、本人の望むキャリアにそった中長期的な人材育成にも貢献します。
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人材にあわせたキャリア自律支援ができる
仕事観やキャリアに対する価値観が多様化した今、従業員それぞれのキャリア自律も非常に重要です。
人材ポートフォリオの作成により、社員一人ひとりの強みや弱み、志向するキャリアを把握することで、個別の教育機会や経験の提供が可能となります。キャリア自律を促す適切な支援は、働きがいの創出につながるのはもちろん、従業員自らが主体的かつ継続的にスキルアップに取り組むことにより、組織全体の生産性も向上するでしょう。
人材余剰・人材不足を把握できる
社内における人材の過不足を、俯瞰的に把握できるのも人材ポートフォリオを作成するメリットです。
例えば、過剰な人材がある場合は再配置や役割変更を検討し、不足している人材については採用や育成を行うことでバランスを調整します。また、組織全体の無期雇用と有期雇用の割合とその役割、貢献度の可視化は、無駄のない人材配置へとつながることから、人件費の削減にも効果的です。
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人材ポートフォリオの作り方
人材ポートフォリオの基本的な作り方、作成時の流れを紹介します。
1.組織の目指すべき姿を明らかにする
はじめに、組織の目指すべき姿の実現に向け、なぜ人材ポートフォリオを作成するのか、その目的を明らかにします。経営戦略や事業計画をもとに、どのような場面で人材ポートフォリオを活用したいのかをイメージしながら、人材ポートフォリオの具体的な定義・方向性を決めていきましょう。
2.必要な人材の要件定義をする
次に、自社に必要な人材の要件を具体的に定義していきます。定義の明確化が求められる人材要件には、主に以下のような項目があります。
- 職務経験
- 保有スキル、能力
- 性格
- 成長意欲やキャリアプラン
- 期待する役割や行動
これらの項目をMUST(必須)、WANT(持っていてほしい)、BETTER(持っているとよりよい)の3つのポイントで細かく洗い出し、具体的な人材要件を作成します。
また、競合調査を行ったうえで、自社の強みを伸ばすために必要な人材、あるいは、弱みを克服するために必要な人材といった視点の人材要件を定義する方法もあります。
3.2軸4象限を活用し人材タイプを分類する
2軸4象限は、業務性質や求める役割などに基づいて将来にかけて自社に必要となる人材をタイプ別に分類し可視化する方法です。具体的な分類方法としては、「個人と組織」と「創造と運用」の2つの軸を設定し、それぞれの軸に基づいて4つのタイプに分類します。
- 個人×創造:オフィサー人材(クリエイティブ人材)
- 個人×運用:エキスパート人材
- 組織×創造:マネジメント人材
- 組織×運用:オペレーション人材
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4.人材をタイプ別に分類する
次に、社内の人材をタイプ別に分類していきます。
ただし、性格や能力といった定性的な要素は、評価者によって、評価が変わるといったリスクがあります。適性検査や360度評価の結果を参考にし、定量的かつ公平な判断ができる環境を整えましょう。
また、成長意欲やポテンシャルを考慮することも重要です。人材の将来性や能力開発の余地を見極め、ポートフォリオに反映させることで、長期的な育成や組織の成果につなげることができます。
5.ギャップを分析し必要に応じた対策をとる
人材タイプの振り分けにより、人員配置や人材タイプの偏りといった課題のほか、特定の職種の高齢化など、将来的に深刻な課題となるリスクも可視化されます。
理想の人材ポートフォリオと照らし合わせつつ、ギャップを顕在化させ、採用、人事異動、人材育成などの対策を講じて、課題を解消しつつ、目指す組織の構築を実現していきます。
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人材ポートフォリオの導入事例
最後に、実際に企業で実践された人材ポートフォリオの導入事例を紹介します。
旭化成株式会社
日本の大手総合科学メーカーである旭化成株式会社は、経営戦略と連動した人材ポートフォリオに基づいて、毎年、全社的な人材要件・人数を見直し、それに基づいた採用活動や人材育成を実行しています。
また、自社の活動で解消できないギャップについては、M&Aによる人材確保などにより強化を図るなど、人材ポートフォリオの活用により、自社に必要な人材の採用・獲得を進めつつ、経営戦略に沿った教育プログラムを展開することで、無駄のない人材育成を実践。組織全体の戦略的な成長や競争力の向上を実現しています。
株式会社サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、自社の成長に必要不可欠とされる事業領域を拡大するため、全社的な社員のリスキルを実行。その結果、事業成長に必要な人材ポートフォリオの確保を達成した企業です。
実行時点で、社内に十分なスキルがない領域に関しては、社外のリソースを活用、勉強会の開催などで継続的なリスキリングなどの取り組みを続け、組織的なリスキルを実現しました。継続的なリスキリングを成功させるための環境づくりとして、社員の積極性を促す目標設定や仲間づくりなどの環境整備にも力を入れたといいます。
花王株式会社
花王株式会社では、人材ポートフォリオの活用により、多様な人材の起用と従業員の活躍を促進しています。
各グループ会社と花王株式会社の関連部署が連携し、就業環境の整備やD&I視点の人材開発を実行。一例として、障がいを抱える社員や女性社員の活躍推進に関する意見交換をおこない、具体的なアクションプランを掲げるなど、多様な人材の受け入れと育成を進め、組織の創造力やイノベーションの創出へとつなげています。
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人材ポートフォリオを組織を持続的に発展させるツールとして活用しよう
人材ポートフォリオは、人的資本経営を実現する上で、必要不可欠なツールとなりつつあります。
人材不足が深刻化する日本において、企業活動の持続性や事業成長を支える人材の確保が年々難易度を上げる中、長期的な視点を持った戦略的な人材マネジメントは欠かせません。
人材ポートフォリオを活用した的確な採用活動、人材育成のほか、無駄のない適材適所による人員配置を実現し、組織全体のパフォーマンス最大化を目指しましょう。
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