遅刻・早退した際の給与計算方法とは?賃金控除や処理の方法について

従業員が遅刻・早退をした場合、給与からそれらの金額を控除することが可能です。本記事では、遅刻・早退した際の給与計算の考え方やルールについて、そして実際の計算方法から、遅刻・早退の控除ができない給与体制について解説します。

監修者 天野 美由紀 天野社会保険労務士事務所 代表 会計事務所、中小企業の総務経理部門の総責任者を経て、在職中に社会保険労務士資格を取得し独立開業に至る。 会社員時代にメンタル不調で退職せざるを得ない事象を幾度か経験し、職場環境がいかに重要であるか痛感する。1日の大半を過ごす場所でもあるため、人材の定着を重視し、働く環境を整えるサポートに注力している。また実務の経験を活かし、会計や税務を含めた多角度からの役員及び従業員の退職金制度設計や賃金制度設計、社会保険料最適化のプランを提供している。
目次

遅刻早退控除とは
従業員が遅刻や早退をしたときは、給与からその時間から金額を計算し控除することがあります。しかし、遅刻や早退により給与の金額を減らすときは労働基準法に規定されていて、就業規則に遅刻や早退の計算方法を記載しておかなければなりません。
給与計算は、就業規則に基づいていつも同じ方法で給与計算をし、計算方法がバラバラで異なる金額を控除しないようにする必要があるのです。
このように、遅刻や早退などの時間から、一定のルールに基づき計算した金額を給与から控除することを遅刻早退控除といいます。
給与計算における遅刻・早退の考え方
従業員が遅刻や早退をしたとき、給与から遅刻・早退に該当する金額を控除することがあります。そのため、必ずおさえておかねばならない考え方があります。
それは、労働基準法の根底にある「ノーワーク・ノーペイ」の原則で、給与計算の担当者にこの認識がないまま給与計算すると、誤った給与支給を行いかねません。
ノーワーク・ノーペイの原則
給与計算をするとき、認識しておくべき原則として「ノーワーク・ノーペイの原則」があります。この原則は、働いていない分の給与は支払う必要がないという意味ですが、働いた分の給与は必ず支払うという意味でもあります。
日本の法律では民法や労働契約法などに規定されており、この2つの法律で「ノーワーク・ノーペイ」の原則は成り立っています。

働いていない時間は控除することができますが、そのためには勤怠管理をしっかり行っているという前提が必要です。タイムカードや勤怠システムなどで詳細な時間管理が出来ているかどうか、まずはその環境を整えることが大切となります。
遅刻・早退した場合に賃金を減額できるのか
従業員が遅刻・早退したとき、給与からその金額を減額されることがあります。
しかし、労働基準法第24条には、「賃金支払いの5原則」があり、賃金は決められた給与は全額支払い、原則として減額できないとの規定があります。
なぜ、給与から遅刻・早退したときに減額できるのかは、先ほど紹介した「ノーワーク・ノーペイの原則」によります。ここでは「賃金支払いの5原則」と、遅刻・早退したときに賃金を減額できる理由について紹介します。
労働基準法24条「賃金支払いの5原則」とは?
労働基準法第24条には「賃金の支払いの5原則」について規定しています。この5つの原則を順に見ていきましょう。
現物給与の禁止 | 給与は通貨で支払わねばならず、商品や商品券などの現物支給は禁止しています。 |
直接払いの原則 | 給与は従業員に対して直接支払い、代理人が給与を受け取ることは禁止されています。 |
全額払いの原則 | 給与は全額を1度に支払い、分割払いを禁止しています。 |
毎月1回以上の原則 | 給与は毎月1回以上支払い、1ヵ月以上の間隔で給与を支払うことは禁止です。 |
一定期日払いの原則 | 毎月支払う給与は、給料日を定め一定のサイクルで支払わなければなりません。 |
給与計算を担当する社員は、まずこれらの5原則を理解しておく必要があります。
遅刻・早退したときに賃金を減額する方法
「賃金支払い5原則」によると、毎月の給与が決まっているときは給与を減額できないのが原則です。しかし「ノーワーク・ノーペイの原則」によると、労働していないときの給与は支払わなくてもよい、と認識できます。
この認識にもとづき、実際に遅刻・早退したときに賃金を減額するには、就業規則に定めがなければなりません。
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給与計算で遅刻・早退を正しく控除する方法
給与計算では、遅刻・早退を正しく控除するには、就業規則に定めが必要になります。
法律に触れない方法として、就業規則に基準を定め、控除の計算方法も明らかにしなければなりません。
また社内に説明し、会社と従業員で認識の違いがないようにしましょう。
- 就業規則に基準を明記する
- 控除の計算方法を決める
- 社内への説明をする
- 給与計算システムを導入する
就業規則に基準を明記する
労働基準法には、遅刻・早退の具体的な控除方法の明記がありません。しかし、会社で自由に控除をすると、労働基準法に反し従業員に不利益を被る可能性があります。
そのため、遅刻・早退の具体的な控除方法は就業規則に明記し、労働基準法に反しないようにしなければなりません。
控除の計算方法を決める
遅刻・早退の給与計算の方法は、労働基準法で詳細に決められていません。実際に給与計算を運用するためには、遅刻・早退の給与計算の方法を就業規則に明記しましょう。
遅刻・早退では、1分単位で処理することが基本で、10分や30分単位など端数の時間を切り捨てて支給すると、労働基準法第24条の規定に違反してしまいます。
なお、就業規則の条項に、遅刻・早退の計算の方法は給与規定に別途定め、給与規定で運用する方法もあります。この場合は、給与規定が法律の要件を満たしているか、十分な確認が必要です。
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社内への説明をする
遅刻・早退の控除については、正社員や契約社員など雇用形態を問わず実施できます。
実施するときは社内で対象者に説明をし、会社と従業員で認識に違いのないようにする必要があります。
さらに、遅刻・早退をするときの社内での連絡や届出方法なども取り決めを行いましょう。従業員には「ノーワーク・ノーペイの原則」が基本となることを説明すれば効率よく運用できます。
給与計算システムを導入する
給与計算システムによっては、勤怠管理と紐つけることができ、社員の遅刻した分の時間を給与に自動的に反映することも可能です。出勤状況や確認をする手間がなくなるので、給与計算が圧倒的に効率化します。
なお、システムによって特徴などが異なるので、資料をチェックして比較検討してみてください。
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給与から控除する場合、控除の単価を正しく算出することが必要になります。公平なルールが必要です。トラブルを未然に防ぐために、計算根拠を規定し、給与システムなどで計算過程のミスが発生しないように運用していくことが大切です。昇給などで計算単価が変更になるタイミングも注意が必要です。
遅刻・早退控除の給与計算方法
給与計算で遅刻・早退控除の実際の計算方法を紹介します。
- 遅刻・早退控除の金額=月給÷1ヵ月の平均所定労働時間×遅刻・早退の時間
なお、1ヵ月の平均所定労働時間は、1年間の所定労働時間を12ヵ月で割って計算します。ただし、会社の就業規則に定める計算式がこれと異なるときは、その計算式で金額を計算します。
例えば月給30万円で所定労働時間が1ヵ月150時間の従業員が、1ヵ月に3時間遅刻・早退したときは、
遅刻・早退控除の金額
=月給30万円÷150時間×遅刻・早退3時間
=6,000円
となり、給与計算では月給30万円から6,000円を引いた29万4千円がその月の給与になります。
遅刻・早退の給与計算時に注意すること
遅刻・早退控除の計算方法は、会社により就業規則が異なることがあります。いずれにしても、民法や労働契約法に触れないように設定しなければなりません。ここでは、具体的な遅刻・早退の控除方法を紹介します。
必ず分単位で計算し端数は切り捨てる
給与では、遅刻・早退の時間を分単位で計算します。
例えば、9時00分が始業時間、18時00分が就業時間とした会社で、具体的な遅刻・早退の時間の計上する例を、以下のとおり見ていきましょう。
9時25分に遅刻して出社したときの控除時間
この場合、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、遅刻した25分間を分単位で控除します。
なお、遅刻について控除する時間を切り上げることは法律により禁止されており、25分という時間を30分に切り上げてはなりません。なぜなら、切り上げた5分の時間分の給与を支払っていないことになるからです。
16時35分に早退し退勤したときの控除時間
この場合も、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、早退した25分間を分単位で控除します。
なお、早退については遅刻と異なり、控除する時間を切り下げることは法律により禁止されています。早退では、働いていない時間を25分から30分に切り下げてはなりません。この場合、切り下げた5分の時間分の給与を支払わないことになるからです。
いずれにしても、遅刻・早退の給与計算は必ず分単位で計算し、端数が生じたときは切り捨てます。もし、その時間を切り上げたり切り下げたりすると、その分の給与を計算せず従業員の受取額が減ってしまいます。
先に紹介したとおり、遅刻・早退時間の数え方は就業規則に記載する必要があります。
例えば、遅刻・早退時間は20分以上から数え給与より控除すると記載すれば、始業から30分の遅刻や退勤まで30分の早退として当該時間を数えることができます。
この場合は、始業から19分の遅刻、退勤まで19分の早退は給与控除の時間として数えないことになります。この数え方は社内で共有し、従業員との認識の食い違いがないようにすることが大切です。
手当も控除可能
就業規則に会社から支給する各手当を控除する旨の記載があれば、それらの控除は可能になります。
そのときは、遅刻・早退の控除と同じ計算方法により、各手当に当てはめて控除額を決定します。
遅刻・早退控除の給与計算時注意すること
遅刻・早退控除の計算は、労働基準法や関係する法律の規定により就業規則に定め、従業員が不利益を被らないように控除しなければなりません。
ここでは、給与控除を行うときの大原則を説明し、さらに控除と減給はことなること、遅刻・早退控除は完全月給制では適用されないことなどを紹介します。
給与控除を行う大原則は、遅刻・早退があった時間分
「ノーワーク・ノーペイの原則」によると、給与控除できるのは、遅刻・早退があった時間分となり、これが給与計算での大原則です。
一方、この大原則によれば、従業員が働いた時間分の給与は必ず支払う必要がある、と解することができます。
働いた分の給与は必ず分単位で支払い、働いていない分の給与は分単位で控除することを認識しておきましょう。
控除と減給は別物
減給は遅刻や早退などではなく、会社の規定により給与を減らすことを指します。
例えば、懲戒処分があった際には働いていない分以上の給与を減らすことが可能ですが、減給には上限が法律で定められているので注意が必要です。
その上限は民法や民事執行法などに規定されており、給与の4分の3に相当する額は控除できなくなっています。
給与から控除するときは、給与の4分の1の額までと認識しておきましょう。
完全月給制は控除が適用されない
毎月同額の給与を支払う「完全月給制」については、遅刻・早退の控除を適用しない給与体系なので注意しておきましょう。
「完全月給制」の従業員は、遅刻・早退に関わらず給与を支払うためです。
賃金控除をおこなうことができないので、自社の給与形態や従業員の中に完全月給で働いている人がいないのか確認しておきましょう。
遅刻や早退は欠勤・有休消化への変更できない
頻繁に遅刻を繰り返す従業員や早退回数が多い従業員に対して、遅刻や早退の回数で有給休暇1日減らしたり、欠勤扱いなどのペナルティはできません。
有給休暇は従業員の権利であり、遅刻の回数=欠勤とはならないためです。
無断欠勤や早退などが多い従業員がいる場合には、別の角度での指導が必要となるのであらかじめ理解しておきましょう。
遅刻・早退の給与計算方法を把握しておこう
ここでは、遅刻・早退した際の給与計算方法について「ノーワーク・ノーペイの原則」にもとづき紹介しました。遅刻・早退をしたときは分単位でその金額を計算し、給与から控除します。
そして、遅刻・早退の控除方法は就業規則に記載し、従業員に共有しなければなりません。また、例外として、遅刻・早退の控除ができない完全月給制についても紹介しました。
遅刻・早退の控除方法は、給与計算の実務で迷うことがあるため、しっかりとしたルールづくりをし、間違いのない給与計算をすることが大切です。

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遅刻や早退について、給与から控除する企業と、しない企業とで分かれます。運用上どちらがいいかは企業の内情により様々です。控除する場合は計算方法や手続きのルールをしっかり決めて明文化していくことが重要となります。