採用ミスマッチが起きる原因とは?早期離職を防ぐポイントと事例について
内定辞退や早期退職につながる「採用ミスマッチ」。採用コストの損失や企業イメージの低下など、多大な影響を及ぼしますが、なぜ採用ミスマッチが起こるのでしょうか。本記事では、採用ミスマッチが起きる原因を、早期離職を防ぐポイントなどとあわせて解説します。
目次
採用ミスマッチとは?
採用ミスマッチとは、応募者と企業側との間で認識のズレが生じている状態のことをいいます。
採用ミスマッチが起きる主な原因としては、応募者側が「入社前にイメージしていた業務内容や職場の環境が、実際には異なった」ということがあるでしょう。
一方企業側から見たときには「応募者の能力や経験、価値観が企業の期待しているものと一致しなかった」というケースが考えられます。
採用ミスマッチが起こると、早期離職を引き起こす可能性があります。ここからは、日本の企業における早期離職率の現状を見ていきましょう。
▷採用プロセスとは?設計する方法や課題・改善に向けたポイントを解説
早期離職率の現状について
早期離職率とは、採用された社員が3年以内に離職する割合を指します。そのため、この数値が高いということは、企業の採用活動がうまくいっていないという指標になります。
厚生労働省の調査によると、新卒で就職して3年以内に離職した割合は大卒で31.2%、高卒で36.9%です。業界別に見ると、宿泊業・飲食サービス業が大卒で51.5%、高卒で61.1%と最も高くなっています。また、電気・ガス・水道などのインフラ業界では大卒で11.1%、高卒で9.2%となっており、業界によってかなり差があることが分かります。
なお、厚生労働省の雇用動向調査によれば、中途採用やパート、アルバイトなども含めた全体での離職率は、数年間で14~16%の割合で推移しているのが現状です。
早期離職率、全体での離職率ともに、決して低い数値とはいえないでしょう。
[出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況を公表します」]
[出典:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」]
よくある退職理由について
厚生労働省の調査結果から、よくある退職理由について見てみましょう。
男性 | 女性 | |
仕事の内容に興味がもてなかった | 5.0 | 3.8 |
能力・個性・資格が生かせなかった | 4.3 | 4.8 |
職場の人間関係が好ましくなかった | 8.1 | 9.6 |
会社の将来が不安だった | 6.3 | 4.5 |
給料等収入が少なかった | 7.7 | 7.1 |
労働時間・休日等の労働条件が悪かった | 8.0 | 10.1 |
結婚 | 0.5 | 2.2 |
出産・育児 | 0.1 | 2.1 |
介護・看護 | 0.7 | 1.5 |
その他の個人的理由 | 19.1 | 24.6 |
年・契約期間の満了 | 16.5 | 12.3 |
会社都合 | 7.3 | 7.8 |
その他の理由 | 15.0 | 8.0 |
[出典:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」]
その他の個人的理由や会社都合、定年・契約満了などを除き、主だった退職理由を高い順に示すと次のようになります。
(男性)
- 職場の人間関係が好ましくなかった 8.1%
- 労働時間・休日などの労働条件が悪かった 8.0%
- 給料等収入が少なかった 7.7%
- 会社の将来が不安だった 6.3%
- 仕事の内容に興味を持てなかった 5.0%
- 労働時間・休日などの労働条件が悪かった 10.1%
- 職場の人間関係が好ましくなかった 9.6%
- 給料等収入が少なかった 7.1%
- 仕事の内容に興味を持てなかった 4.8%
- 会社の将来が不安だった 4.5%
男女とも「職場の人間関係が好ましくなかった」「労働時間・休日などの労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」が最も多い理由であることが分かります。
次に「仕事の内容に興味を持てなかった」が続き、男女とも「会社の将来が不安だった」という理由を挙げているのも注目すべき点といえるでしょう。
この結果から、給与や労働時間といった、労使間で労働条件の折り合いがつきにくいことがうかがえます。その状態が職場全体の雰囲気や人間関係を悪化させ、仕事に対するモチベーションを下げてしまっているのかもしれません。また、昨今は求職者よりも求人数が多くなる売り手市場であり、退職を決意しやすい風潮が高まっていることも後押ししていると考えられます。
採用ミスマッチが起きる原因
採用ミスマッチはなぜ起きるのでしょうか?ここでは、主要な原因を4つに絞って解説します。
公開している情報量が少ない
大きな原因の一つとして、企業が公開している情報量が少ないことが挙げられます。
企業の社風や仕事内容、福利厚生や給与などの諸条件、残業時間や研修制度など、応募者が知りたいと思う情報は細かいところまでしっかりと提示することが大切です。
また、ポジティブな情報しか伝えないのも採用ミスマッチにつながります。自社のよい面や求職者側のメリットばかり伝えるのではなく、企業として不足している部分や仕事の厳しい面などの情報もしっかり伝えましょう。
応募者の適性を見極められていない
採用する側が応募者の適性を見極められていない場合も、採用ミスマッチを引き起こす原因になります。経験やスキル、これまでにやってきたことなど、表面的な部分だけで判断せず、人物像や社風との相性を見るようにしましょう。
また、応募者はスキルや能力を過大に売り込む場合もあるため、面接の際には時間をかけて慎重にヒアリングする必要があります。
▷中途採用した人材が期待外れになる原因|能力を引き出す育成方法や活躍する人材の採用方法
応募者に対して期待する役割を明確に伝えていない
採用ミスマッチを引き起こす原因として、現場が期待するパフォーマンスと、求職者がイメージする役割に齟齬が生じることが挙げられます。実際に働き始めてから、想定していた業務内容やポジションとの間にギャップを感じてしまうと、入社後に不満が生じて採用ミスマッチにつながります。
▷ポテンシャル採用とは?メリット・デメリットや年齢制限、見極めるポイント
入社後のフォローが不足している
入社後のフォローが不足すると、ミスマッチが生じて離職につながることがあります。人間関係や仕事が合わないといった理由から、新入社員が職場に馴染めずに早期離職してしまうケースは少なくありません。
どんなに実力のある人材を雇ったとしても、入社後のフォローが不足していれば活躍するのは難しいでしょう。採用した人材が組織に慣れて実力を発揮できるよう、オリエンテーションや研修、メンター制度などのサポート体制を整えることが求められます。
採用ミスマッチによって発生するリスク
採用ミスマッチは、企業に多くのリスクをもたらします。どのようなリスクが考えられるのかを見ていきましょう。
既存社員へのモチベーションに影響する
採用ミスマッチが起こると、新たに入社した社員が期待通りのパフォーマンスを発揮できないだけでなく、早期離職の原因にもなります。採用ミスマッチによって早期離職者が増えてしまえば、社内で離職の話が増えたり、離職した人材の業務をカバーするための作業が増えてしまうなど、既存社員のモチベーションに悪影響を与えるでしょう。
採用コストが増加する
採用活動には、広告費や紹介料といった外部コストのほか、採用担当者の人件費や新入社員の教育コストなどの内部コストがかかります。
採用ミスマッチによって社員がすぐに退職してしまえば、そのポジションを再度採用することになり、採用コストが増加することが考えられるでしょう。
▷一人当たりの採用コストの平均とは?内訳や計算方法・削減するポイント
イメージダウンにつながる
短期間で退職する社員が増えると、企業のイメージにも悪影響を及ぼします。離職率は社外に公開されるため、離職率が高い状態が続くと、求職者やほかの企業からのイメージダウンにつながるでしょう。その結果、優秀な人材を引き寄せることが難しくなる可能性があります。
【入社前】採用のミスマッチを防ぐための対策
採用ミスマッチに伴う早期離職を防ぐには、どのような対策をしたらよいのでしょうか。ここでは、採用ミスマッチを防ぐために入社前に行うべき対策を紹介します。
採用基準を明確にする
最初のステップとしては、採用基準を明確にし、構造化面接を実施するのがおすすめです。
構造化面接とは、自社の採用要件や評価基準に則って質問事項を定め、マニュアル通りに実施する面接のことをいいます。構造化面接によって、誰が面接を担当しても同じ質問をすることになるため、属人化が避けられ、客観的な評価がしやすくなります。また、採用基準に満たない人を採用してしまうリスクも減らすことができるでしょう。
▷採用基準とは?決め方や人材を見極める上でのポイント・3つの要素を解説
RJPを実践する
RJP(Realistic Job Preview)は、アメリカの産業心理学者ジョン・ワナウス氏が提唱した採用理論で、職場の実際の状況や期待される業務内容を候補者に事前に示す手法です。日本語では「現実的な仕事情報の事前開示」と訳されます。
RJPには以下4つの効果があるとされています。
ワクチン効果
ワクチン効果とは、企業のよい面ばかりを伝えるのではなく、マイナス面も包み隠さず伝えることで理想と現実のギャップを最小限に抑えることです。これは「期待へのワクチン」とも呼ばれることもあります。
スクリーニング効果
十分な情報を提供することで、応募者自身が会社の風土や業務内容に合うかどうかを判断することができます。合わないと感じれば、企業が内定を出しても入社を辞退するでしょう。これにより、会社に合う人材だけが入社することになるため、採用ミスマッチを防ぐのに役立ちます。
コミットメント効果
コミットメント効果とは、ありのままの情報を開示して企業に対する信頼感を深めることです。入社前の段階でネガティブな部分についても伝えておくことで、企業の誠実さをアピールでき、帰属意識を高める効果が期待できるでしょう。
役割明確化効果
入社後に求められる役割を明確化することで、業務への意欲を高めることができます。「何を期待されているか・何をすべきか」ということを明確にしておけば、周囲もサポートがしやすく、入社後もスムーズに業務に馴染めるでしょう。
適性テストを実施する
適性テストは、候補者の能力や性格が職務要件と合致するかどうかを客観的に評価するための有効な手段です。「能力検査」と「性格検査」の2種類に大別され、目的に応じて使い分けます。適正テストによる客観的な評価を行うことで、採用ミスマッチを防げるだけでなく、採用担当者の業務負担軽減にもつながります。
カジュアル面談を実施する
カジュアル面談は、採用面接とは別に応募者と企業がコミュニケーションを図るために実施し、選考することが前提となっている面接とは異なり、お互いにリラックスした状態で話せるのが特徴です。
カジュアル面談の目的としては、企業が応募者に期待するパフォーマンスを伝えることや、企業のよい面と悪い面を知ってもらうこと、応募者の要望や不安などをヒアリングすることなどが挙げられます。
カジュアル面談は面接よりも本音で話すことができるため、相互理解が深まりやすく採用ミスマッチの防止に役立つでしょう。
リファラル採用を導入する
既存の社員が推薦する人材を採用する方法です。社員自身が企業文化を理解しているため、推薦される人材と企業とのミスマッチが起こりにくい方法といえます。
リファラル採用を実施する際は、既存社員に求める人物像を周知しておくことが重要です。人材を補充したいポジションにおいて、どのような人材を求めているのかを伝えましょう。
また、中途採用の場合はリファレンスチェックの実施も有効です。リファレンスチェックとは、応募者の前職の勤務先にヒアリングをして実績や人柄を確認することをいいます。外資系企業では一般的に行われてきましたが、日本の企業でも採用ミスマッチを防ぐ有効な手段として取り入れるところが増えてきました。
▷リファラル採用ツール5選を比較!メリットや選び方・主な機能を紹介
ダイレクトリクルーティングを導入する
ダイレクトリクルーティングは、企業が求人サイトやSNSを使って直接人材にアプローチする方法です。一般的な求人広告で募集を行っても、企業側が求める人材が応募してくるとは限りません。その点、ダイレクトリクルーティングであれば、求職者の情報を集めた上で、自社が欲しいと思える人材をスカウトできます。
インターンシップを活用する
インターンシップは、在学中の学生に企業に入ってもらい、実際の業務環境での適応性や能力を見るものです。数日間~2週間程度で実務を体験する短期インターンシップや、数か月~1年以上実施して社員と同等の実務ができる長期インターンシップがあります。
実際に働きながら現場や社員について知ることによって、企業への愛着を形成することにもつながるでしょう。学生にとっても、企業にとってもお互いを知るための貴重な機会として活かすことができます。
【入社後】採用のミスマッチを防ぐための対策
入社後も引き続き、採用ミスマッチを防ぐための対策を行う必要があります。ここでは、採用後の具体的な対策を紹介します。
入社後のオリエンテーション・研修を実施する
新入社員が入社した後は、オリエンテーションや研修を実施しましょう。これにより、企業文化への理解を促せるため、さまざまな不安が解消し、帰属意識が芽生えやすくなります。また、今後実現したい事業や人事制度についても伝えるとよいでしょう。この会社で働いていたいと感じてもらうことで、離職率の低下にもつながります。
メンター制度を導入する
メンター制度とは、経験豊富な社員が新入社員の相談役となり、業務上のアドバイスやキャリア形成の支援を行うものです。よくある離職理由のひとつに、職場の人間関係があります。気軽に相談できる相手がいることで、日々の業務で感じた悩みを解消できるだけでなく、人間関係のトラブルを防止できる効果も期待できます。
1on1ミーティングを行う
上司と新入社員が定期的に1対1でミーティングを行うことも大切です。業務の不明点や仕事の悩みなどを相談することによって、心理的安全性を確保できます。関係性によっては、プライベートな話をすることも重要です。業務上のフィードバックの機会を与え、課題があればともに対処する姿勢を示すことで、円滑な関係を築いていきましょう。
▷1on1ミーティングとは?目的やメリット・注目されている背景、進め方を解説
既存社員との関れる機会を設定する
ランチミーティングや社内の部活などを通じて、さまざまな社員と関われる機会を設けましょう。社内のコミュニケーションが活発になれば、チームワークが強化され、離職率の低下につながります。
採用ミスマッチ防止の成功事例
最後に、採用ミスマッチを防ぐことに成功した企業の事例を紹介します。
株式会社中谷本舗
株式会社中谷本舗は、奈良県の郷土料理である柿の葉寿司の製造・販売を行う会社です。東京にも事業所があり、管理・製造・営業・販売の各職種で人材の採用を行っています。
同社は、簡易採用ページ作成サービスを活用し、コストを最小限に抑えながら求人情報や働き方の実態を発信しています。紙媒体と併用しているものの、8:2でWeb経由での応募が多くなっているそうです。また、応募者が条件を細かく書けるようにしたことで、応募数が増加しました。
Webサイトでは「年末年始は休むことが難しい」といった一般的にネガティブに捉えられがちなポイントも率直に伝え、歴史や商品へのこだわりを訴求しています。また、実際の働き方がイメージできるように写真を多用したり、インタビューやFAQを掲載したりして不安を払拭することで、ミスマッチによる離職を防ぐことに成功しています。
株式会社moovy
株式会社moovyは、採用動画メディア「moovy」を運営している会社です。代表者は「採用動画が採用のミスマッチと機会損失を解決する」と確信して創業に至りました。
従来の主流であった「おしゃれ採用動画」から脱しているのが特徴で、企業側も採用候補者側もありのままの姿をさらけ出すことが大事といいます。現在は都内のスタートアップを対象にサービスを展開していて、クライアントの人材採用に貢献しています。
レクストホールディングス株式会社
レクストホールディングス株式会社は、2016年に大阪で創業し、骨董品や着物、食器などを買い取り販売するリユース業をメインに幅広い事業を展開している会社です。多くの人材を必要とするこの会社では、2021年から「ゲーム選考」を実施しています。
RPGの要素を取り入れたオリジナルのゲームやすごろくを用いることで、会社の理念や事業、業務などを体験できるようにしたそうです。ゲーム選考を実施してからというもの、2019年に21人だった採用数が2022年には116人まで増えるなど大きな成果を実感しています。
採用ミスマッチを防ぎ社員の定着化につなげよう
本記事では、採用ミスマッチが起こる原因や対策方法などを紹介しました。採用ミスマッチを防ぐには、企業と求職者の相互理解を深めることが大切です。本記事で紹介した施策や企業の成功事例を参考にし、自社の求める人材の獲得と社員の定着化を実現しましょう。
採用管理システムの記事をもっと読む
-
ご相談・ご質問は下記ボタンのフォームからお問い合わせください。
お問い合わせはこちら