人材とプロセスを丸ごとクラウドに「BpaaS」とは?
その道のプロに聞く!BPaaSやBPO活用時のポイント
新しい業務委託サービスとして注目を集めるBPaaS。そのビジネスモデルは、とりわけ中小企業の人手不足を解決する手段として期待されています。大手SI企業、SaaS企業、コンサルティング会社まで、様々な企業の参入が続く「BPaaS」とは、どのようなサービスなのでしょうか。※本文内、敬称略
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小野寺崇文さん
株式会社kubellパートナー
アシスタント事業本部 セールス&サクセスユニット セールス部/マネージャー
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山本昂央さん
株式会社kubellパートナー
アシスタント事業本部 セールス&サクセスユニット セールス部 フィールドセールスチーム/チームリーダー
近年、よく耳にする「BPaaS」という言葉。人手不足に悩む経営者の方は、自社の課題解決に役立ちそうだけれど、何をしてもらえるのか分からないことから、導入に踏み切れない方も少なくありません。
そこで今回は、BPaaS事業のパイオニア的存在であり、数々の中小企業の人手不足をBPaaSモデルのサービス「Chatworkアシスタント」で解決へと導くプロフェッショナル、株式会社kubellパートナーの小野寺さん、山本さんにお話を伺いました。
BPaaSとは、一体どういったサービスなのか、BPaaSをはじめとしたアウトソーシングを活用し、社内業務を外部委託する際のポイントや注意点とは?
人材とプロセスを丸ごとクラウドに「BpaaS」とは?
ーーまずは、BPaaSとはどういったサービスであるのか教えてください。
小野寺:BPaaS(Business Process as a Service)は「型化された業務プロセスと人材を含むオペレーションをクラウド上で購入できるビジネスモデル」を指します。BPO(Business Process Outsourcing)をはじめとしたアウトソーシングモデルの発展系ともいえますね。
ただしBPaaSとBPOは似て非なるものです。従来のBPOは決まった業務を外部委託し、社内のリソース最適化を目指すサービスです。当然、外部委託するためには、従業員が取り組んでいる業務を整理し、マニュアルに落とし、型化することが求められますが、それらを自力で推進できる企業はそこまで多くありません。
BPaaSでは、すでに型化されたプロセスをクラウドのツールのようにすぐに使い始められ、必要な時に必要な分だけ利用できる、という大きな違いがあります。また、運用時も各企業のなかに入りこみ、現場で実務をキャッチアップしながら業務プロセスを実行していくんです。
そして、必要であれば型化されている業務プロセスを移植し業務自体の効率化も図っていきます。そのため、たとえBPaaSベンダーとの契約が満了しても、効率化された業務プロセスは残る。ここがBPOとは大きく異なる点です。
BPOの場合は基本的に外部委託前と業務プロセスが変わっていないので、契約が完了してしまえば、自分たちが内製していた状態で戻ってくる形が大半になりますから。
ーーBPaaSはよく「BPO × SaaS」のビジネスモデルと表現されますが、SaaSの活用が必須ということではなく、サービスの本質は、業務改善・業務の最適化ということでしょうか。
小野寺:そうですね。効率化・自動化といった業務改善を行ううえでSaaSを活用する、ITを活用するという側面が強いのは確かです。しかし場合によっては、必ずしもSaaSなどのIT要素が含まれないケースも当然あると思っていて。
業務改善の観点で探っていくと、人がやった方が早いプロセスもあります。そういった部分については無理にITを入れるのではなく、方法やプロセスを変えたり、意識を変えたりすることで効率化できるケースもある。こういった側面も含めて対応するのがBPaaSの基本的な考え方です。
そういう意味では、ITツールの活用はあくまでBPaaSにおける手段の一つとして捉えていますね。イメージとしては「BPO+SaaS」というよりも、「業務改善を前提としたBPO」の方がより近いと思います。
とはいえ業務改善や効率化を進めるうえで、やはりITや自動化といったキーワードは切っても切り離せません。そのため実態としてはSaaSを活用するケースは多くなりますね。
BPOでは対応しきれない中小企業の課題解決が実現
ーーBPaaSが今求められている背景について教えてください。
小野寺:既存市場であるBPOのビジネスモデルは、大企業では機能したとしても、日本の大半を占める中小企業においては、十分に機能しなかったのだと思います。
例えば、年末調整業務にBPOを活用する場合、従業員が1000人以上いる企業の業務を請け負うのと、従業員10人の企業の業務を請け負うのとでは、当然、ベンダー側の体制やコスト構造が異なります。場合によっては、中小企業の案件はベンダー側にとって、請け負うだけ赤字になってしまうこともあり、ベンダーとユーザー企業双方が「win-win」になるのは難しいというビジネスモデルとしての壁というか、現状がありました。
加えて、中小企業の仕事はかなり複雑で、細かく見るとイレギュラー要素もすごく多いんです。なおかつ属人化している作業も多く、そもそもマニュアルなどの言語化が非常に難しい。つまり企業毎に独自のやり方があり、BPOベンダーがそこに個別で対応しきれない実状もあるのではないかと。
またBPOは業務の一部を切り出して委託するため、結局プロセスではなくタスク単位で依頼することが多くなります。そうなるとそもそも業務プロセスを効率化するところまでは手が回りません。
とはいえ大手のBPOベンダーのなかには、各企業に合わせてカスタマイズしてシステムを作り、業務改善や運用まで巻き取るようなモデルを提供しているケースはあります。ただ、こういったモデルは特にイニシャルコストが膨大になるため、大企業と比べてキャッシュが潤沢ではない中小企業が使えるかというと正直難しい。
一方BPaaSは業務改善に取り組むものの、必ずしもシステムなどを開発するわけではないため、比較的低コストで運用できます。そもそも、各企業ごとの業務プロセスを極力カスタマイズせず、型化されたプロセスで回していく、というBPaaSのモデルでは上述のようなコストがかかりづらい。そういう意味でBPaaSはこれまでBPOが対応できていなかった中小企業の痒い所に手が届くサービスであり、だからこそ需要が高まっているように思います。
ーーBPaaSが特に適している領域や業界はあるのでしょうか?
小野寺:業界というのは実はあまり関係なくて、業務領域や業務特性で適しているかどうかが大きく分かれます。業界に限らずあらゆる会社において共通する業務プロセスはありますよね。例えば経理だったり、人事労務だったり、法令対応のようなところは、多少の違いはあれど、基本的にどんな企業でも似たような流れで取り組んでいると思います。
BPaaSはこういった、さまざまな企業に共通するプロセスについて、課題や壁を取っ払えるような「業務プロセスの最適解」を目指すアプローチなんです。裏を返すと特定の業界にしか起こりえない業務だったり、専門性が著しく高いコア業務だったりするほど、現時点でのBPaaSでは解決が難しいという感覚があります。
ただし将来的には専門的なコア業務の領域にも対応できると思っています。例えば採用領域は近い将来実現されるのではないかと。ベンダー側が業界や職種ごとの知識についてインプットを継続し、サービスとして整ってくれば、丸ごと対応できるようになると考えています。
可視化は作業内容ではなく「関連業務への影響」を軸に整理
ーーBPaaSにせよBPOにせよ、現在の業務を可視化することが重要だと思いますが、どのように見える化を図ればよいのでしょうか?
山本:方法としては、大きく2つの手順があります。まず一つが業務の棚卸しです。業務タスク単位で実際に行っている作業内容を、Excelなどにまとめることが第一歩になると思います。
よく業務の可視化のお話をするとプロセスマップや業務フロー図の作成を想像しがちなんですが、こういった資料を作るには相応の知見が必要ですし、何よりも手間がかかるので、無理してまで作る必要はありません。概要レベルでもいいのでまとめておくと、比較的スムーズに外部に依頼することができます。
次に、経営と現場双方の視点で、業務に関するディスカッションをする場を設けていただきたいなと思います。経営側と現場側で業務に対しての見方が異なることは往々にしてあります。そのため、経営目線の「こうしてほしい」と、現場目線の「こうしたい」という意見をすり合わせながら、業務の現状と理想像を整理することが有効だと思います。
小野寺:本来はプロセスマップや業務フローもざっくりとでもいいので作成できて、それをベースに「どう業務を改善すべきか」という議論ができる素地を、企業内に作っておくことが重要です。ただ、山本が言うように、そこまでできなくても箇条書きレベルでもいいのでマニュアルとして言語化しておけば、BPaaSに限らず外部リソースを使って業務を進めていく環境はできていると思います。
しかし業務の可視化やプロセスの改善における、ナレッジやリソースを持っているBPOベンダーは少ないので、結果的に業務改善コンサルに依頼するケースが多くなっていると思います。ただコンサルとなると、プロセスマップに落とし込むだけで何十万円と多額の費用が発生するというジレンマが生じているのが実態ですね。
ーー業務を可視化する際に注意すべき点はあるのでしょうか?
小野寺:BPaaSやBPOのようなサービスに依頼するという文脈でいえば、タスクレベルの解像度をそこまで上げる必要はありません。ここでいうタスクとは「インプット・処理・アウトプット」をセットにした一連の流れのことです。
BPaaSやBPOに言葉として入っているとおり、対象とするのはビジネスプロセスであるため、一連の業務プロセスとして捉えることが重要になるんです。この業務のアウトプットは、どの業務のインプットになるのか。このアウトプットはどの業務に関連しているのか。こういった点こそ網羅して整理すべき点です。
例えば、経費精算について入力期日がありますが、この期日が遅れてしまうことで、経理や決算にどんな影響を及ぼすのか、みたいな話ですね。
アウトプットがもたらすインパクトとその範囲について把握できていなければ、BPaaSやBPOを使ったとしても、結局費用対効果の改善に繋がらないといった可能性は高くなるでしょう。なので、タスクの中身ではなくタスク同士の全体的な繋がりを意識しながら、可視化していくことが重要だと思います。
専門知識が必要な定型業務はBPaaSに適している
ーー外部委託に特に適している業務はあるのでしょうか?
山本:一番有効なものは、ルーチンワークでありながらも、ある程度の専門性が必要で、定常的なボリュームも多い業務が挙げられます。先ほども挙げた経理領域や労務領域はその最たるものです。
とくに中小企業は、経理や労務を1人で兼務しているケースや、新卒入社などで、配属後に業務をこなしながら必要な知識を覚えるケースが多く、それぞれの業務領域に精通した人材がいないことも珍しくありません。となると、日常業務を覚えることで精一杯になり、専門性を高めるところまでは手が回らないのが実状です。その点、BPaaSやBPOを活用すれば、その領域や業務に関する専門的な知識を持った担当者が代行するため、業務効率化や質の改善が望めると思います。
ーー逆にBPaaSやBPOに委託すべきでない業務はあるのでしょうか?
山本:リアルタイムでの対応が頻繁に発生する業務や、意思決定などを伴う業務は効果を出しづらいように思います。いわゆるコア業務、非定型業務ですね。こういった業務はボリュームも読みにくく、決まった業務フローなどもないため、型としてはめ込むというのも現実的ではありません。
仮にこういった業務を委託した場合、ベンダー側とのコミュニケーションコストも大きく膨らんでしまい、「自社で回していた方が工数もかからなかった」事態にも陥りかねないと思います。
大事なのはその業務を“誰がやるか”
ーーベンダーを見極めるうえでどのような点を重視すべきか教えてください。
小野寺:一番のポイントは「誰がこの業務をやるのか」です。BPOやBPaaS問わず、結局のところ業務を依頼して、その業務を誰かにやってもらうという構造は変わりません。そのため業務を担当する作業者やオペレーターのスキル・専門性は、得られる成果に直結します。
もし担当者が高度な専門性を持っておらず、リソースという観点だけで集められた人材が担当する場合、正直サービス品質については期待できません。ただこういったベンダーには「費用が安い」といった長所があります。そのため、ノンコアで専門性も不要な業務であれば、十分選択肢になり得るでしょう。
逆に先ほど山本がいったような定型業務ではあるものの専門性も必要な業務であれば、知見やスキルを持っているメンバーがいるかは、あらかじめ確認すべきでしょう。
ーー外部に任せたい業務の特性に応じて、使い分けることが重要ということですね。
小野寺:そうですね。ここがまさにBPaaSを使うのか、BPOを使うのかの分かれ目でもあると思っていて。
どのサービスを活用すべきかは、委託企業側の目的によります。単純に「人的なリソースを確保したい、外部に出してコストダウンしたい」といった話であれば、コストが安いBPOを選び、そこに合わせてマニュアルを整備する取り組みが正しいと思います。
その一方で単純に業務を遂行していくのではなく、業務の構造やプロセスそのものの改善や、DXといった目的がある場合、BPOだと期待値を下回ってしまうでしょう。逆にBPaaSはこういった目的やニーズまで一気通貫でカバーできるため、選択肢としては最有力候補になる。
このように業務の特性はもちろん、そもそもの目的をまず明確にしたうえで、ベンダーを選ぶことが重要だと思います。
ーー注意が必要なベンダーを見分けるポイントはありますか?
山本:やはり実務担当者のレベルや実績がオープンにされていないベンダーには注意すべきです。たとえWebサイトなどで明記されていなくても、問い合わせをすると根拠とともに提示してくれるのであれば問題ありません。しかし直接問い合わせをしても、根拠がなかったり、曖昧な回答をしたりするようなベンダーは避けた方がいいでしょう。
小野寺:あとは打ち合わせのなかで、タスクの内容や細かな部分に話が終始するベンダーにも注意した方がいいと思います。
BPOやBPaaSの活用は、何かの目的・ニーズを達成するための手段です。そのためその裏には、業務コスト削減であったり、従業員のキャリアアップだったり、さまざまな目的があります。こうした目的を理解せずに「作業に対する費用感」の話に終始するようなベンダーであれば、本来望んでいる期待値を下回ってくる可能性が高いです。
データ入力業務の委託だと捉えて「データ入力ならいくらです」という提案なのか、そもそも「データ入力を人がやること自体がナンセンスなので、こういったツールを導入するのも選択肢の一つ」という提案をしてくれるのか。こういった面まで深く考えてくれるベンダーを選ぶべきだと思います。
社内で何ができるようになったかをモニタリングすることが肝
ーーBPaaSやBPOのプロジェクトについて、マネジメントするうえで企業が押さえておくべきポイントを教えてください。
小野寺:一つは「効果が出るまでの期間はある程度かかる」という点を理解しておくということです。これはBPaaSやBPOのサービス全てに言えることですが、スタートしてすぐに効果が出るというケースはほとんどありません。
外部委託したとしても結局人がその業務を担う以上、担当している人間の熟練度が高まっていくにつれて、業務品質も高くなります。たとえその業務や領域の専門性を持っていたとしても、企業毎の“ローカルルール”に慣れるまでの時間は必ずかかってきます。そのため基本的には導入してから3〜6ヶ月程度は見ていただいた方がいい。
そして、外部に業務を委託して確保できた社内リソースで、何ができるようになったのか、という点をしっかりとモニタリングすべきです。
ーー社内でできるようになったことをモニタリングするという点について、もう少し詳しく教えていただけますか?
小野寺:一般的にこういったサービスを使ううえでは、誰がどのくらいの作業を何時間でこなせたか、という単純で短期的な指標に目がいきがちです。そのためモニタリングすべき対象も、委託業務がいかにスムーズに行われているかに偏ってしまいます。。
しかし本来は外部委託することで下がった社内のリソースによって、新たにどういう取り組みができたかが重要なんです。例えばコア業務の生産性を高めることであったり、従業員のリスキリングであったり。こうした新しい取り組みについて、どれだけ生み出せたかをしっかりと把握すべきです。
こうした取り組みをせずに単に外に切り出しただけだと、「外注費が増えただけ」といった意識になってしまうでしょう。モニタリングもそうですが、アウトソーシングを利用する目的の時点で、新たに生まれた時間で何をするか、は考えておくべきだと思います。
ーーつまり従来のKPIの管理はそこまで重要ではないということでしょうか?
小野寺:そういうわけでもありません。定型業務をそのまま外部委託するBPOの場合は、当然ベンダーのパフォーマンスを測るためにもKPIでの管理は重要です。
ただBPaaSの場合は「そもそもこの業務フローが正しいの?」という前提に立って、業務改善から入っていくので、最初にKPIを設定することは難しいんです。
BPaaSに取り組んで、ある程度業務フローが構築されたタイミングで、はじめてKPIによる管理が有効になります。こういった複雑で柔軟な対応が求められる状況でも推進していくことができるのが、BPaaSの強みや本領を発揮できる部分だと考えています。
どこまで密にコミュニケーションを図れるかが成否を分ける
ーーここまで把握しておくべき情報などをお聞かせいただきましたが、その他ベンダーをマネジメントしていくうえで重要なポイントはありますか?
小野寺:現場の従業員とベンダーが、コミュニケーションをどれだけ密に取れるかという点も大きなポイントです。BPOを例に挙げると、定型業務を任せてそのアウトプットが返ってくるような構造になるので、日常的なコミュニケーションはそこまで密に取っていないケースが多いと思います。
ただ業務を社内で行っていた時を考えると、恐らく関係者間でもっと細かなやり取りをしていると思うんです。この「社内でやっていた状態」にどれだけ近づけるかが重要になります。
もちろん最初にある程度、やるべきことと進め方をクリアにしたうえで行うものですが、実際に行ってみての改善点は必ず出てきます。こうした改善のアイデアを的確に拾うためにも、密なコミュニケーションは欠かせません。
私たちのサービスでは、ビジネスチャットのChatworkを通じて、お客様とコミュニケーションを取りますが、実際に支援させていただく際は、1日に何十往復もやり取りをする時があるほど、丁寧に連携しています。
ーーそこまでいくと委託先というより社員のような感覚ですね。
小野寺:おっしゃるとおりです。私たち自身も外部から支援するというイメージではなく、「リモート環境で働く従業員として入る」感覚でやらせていただいています。
そのためBPO分野では、よく「業務を外に切り出す」と表現されますが、こういった考え方はもう古いと思っていて。
外に切り出すというイメージのままだと、企業側に窓口となるマネージャーを設置して、そのマネージャーがベンダーとのやり取りを一括で担う形になります。マネージャーは往々にして現場業務の細かな点を理解していないことが多いので、結局マニュアルに基づいた画一的なオペレーションに陥りやすいんです。そうなるとマニュアルに記載されていない内容については、「どっちが対応するんだ」みたいなベンダーとのトラブルも起きやすい。
一方で現場レベルの従業員がしっかりと前に立って、ベンダーと密に連携を取ることで、こういったトラブルも防げますし、何より柔軟に最適な形に変化しながら運営することができるでしょう。自社だけでは気づけなかった第三者視点で業務を見つめ直すことにも繋がります。
プロセスの言語化は外部委託後にこそ重要になる
ーー外部委託した際、その業務を担当していた従業員のモチベーションが下がってしまうことはあるのでしょうか。
小野寺:そのあたりの課題は当然出てくると思います。そのためBPaaSなどを導入する際は、あらかじめ担当従業員に対して「あなたの業務を奪いたいわけではない」という点を必ず伝えるべきです。
外部支援を入れなければならない背景や目的をふまえ、担当者自身にとってのメリット、例えば業務が楽になるであったり、効率的になって残業が少なくなるであったりをしっかりと伝える必要があるでしょう。そのうえで、外部ベンダーを入れることによって空いた時間に何をするのか、という点にフォーカスして、従業員の方と新しい役割などの方向性を議論する。ここが重要です。
そういう意味ではBPOやBPaaSを導入するプロジェクトチームに、現場の担当者を入れることも重要だと思います。そうすることで「チームに入ったからには意見を伝えてもいい」という心理的安全性を担保でき、現場の意見もしっかりと拾うことができるでしょう。
ーー外部委託における大きな問題として、ベンダーロックイン(ベンダーに完全に依存した状態)があると思うのですが、こちらに対してはどのように対応すべきなのでしょうか?
小野寺:「半年や1年のタイミングで見直しする」という前提で導入することで、少なくとも丸投げ状態には陥りにくいのではないでしょうか。
あとは委託業務について、マニュアル化まで依頼しておくことです。とはいえ業務内容によって適したマニュアルの形は異なります。例えばタスク単位でのマニュアルであればテキストで十分ですが、内容によっては動画マニュアルもおすすめです。
いずれにせよマニュアルとして可視化されていることで、他のベンダーにリプレースする際や内製化する場合に、ほぼ同じような形で業務を進められます。
だからこそ「外部に切り出す」という意識ではなく、外部に任せたとしても、自社の業務であるという意識が重要なんです。主体的に関わり、しっかり社内に残る仕組みを構築する。ここがベンダーロックインを防ぐうえでの大きなカギになります。
適切な使い分けがBPaaS・BPO活用の成功に繋がる
ーー今後のアウトソーシング活用の在り方はどのように変化していくと思われますか?
小野寺:目的を明確にし、ベンダーを使い分けるスキルがより重要になってくると思います。BPaaSとBPOを例に挙げても、それぞれ得意とする領域や期待できる効果は異なります。
これだけ多様なサービスがある状況においては、「とりあえず社内人材が不足しているから外部委託を使おう」といったスタンスでは、結局効果が得られないケースも多くなります。しっかりと目的に照らし合わせながら、BPOが最適なのか、それともBPaaSを導入すべきなのかをしっかりと吟味しなければなりません。
そのためにも同業他社の取り組みについて、ベンダーに確認することが重要です。成功事例だけでなく失敗事例も確認することで、成功あるいは失敗に至った「目的と取り組みのパターン」などを疑似的に社内ノウハウとして累積でき、より最適な選択ができるようになるので。
山本:ベンダー側もそうですが、いかに柔軟性を持って取り組めるかが重要だと考えています。まず業務プロセスをルーチンワークに分解して、そのなかから一部の業務を任せてみて、そこでうまくいったら別の業務も任せてみる。こういった柔軟な試行錯誤が必要ではないかと。
どれだけ事前に話を詰めていても、イレギュラーや想定していたような効果が出ないことは往々にして起こります。そこで「効果が出ないからやめる」という判断をするのではなく、別のやり方を試して検証してみる。いわばアジャイル的な思考が重要になるんです。こうしたスタンスで活用することができれば、BPOであってもBPaaSであっても、しっかりと成果を出していけるのではないかと思います。