個人事業主が福利厚生費を計上できる?認められる条件や活用できるケース
働き方の多様化により、フリーランスや個人事業主が増えている昨今。個人事業主の福利厚生について関心が集まっています。本記事では、個人事業主は福利厚生費を計上できるのか、福利厚生費が認められる条件とは何か、個人事業主が福利厚生費を活用できるケースについて解説します。
目次
福利厚生費とは?
福利厚生費とは、従業員の慰安を目的として、企業が給与・賞与以外に支出する経費のことです。
社会保険・雇用保険・厚生年金保険など、法律によって提供が義務付けられているものは法定福利費と呼び、それ以外の社員旅行費や健康診断費などを法定外福利費と呼んで区別しています。
条件さえ満たせば全額損金として計上できるため、従業員の健康増進やモチベーションアップなどと税金対策を両立できる方法として、幅広く活用されています。
個人事業主でも福利厚生費は計上できる?
個人事業主の場合は、単独経営か家族経営のどちらかであるか、また、従業員がいるかどうかによって扱いが変わります。ここではそれぞれの場合を見ていきましょう。
単独経営
単独経営の場合、福利厚生費は事業主が従業員に対して提供するものであるため、福利厚生費は計上できません。
税法上の厳密な区分が不明確な部分もありますが、「単独経営=個人事業主」という扱いになるため、福利厚生の対象外とする考え方が一般的です。
家族経営
事業主と従業員が家族のみで構成されている場合も、福利厚生費は計上できません。
経費は基本的に「仕事上で必要と認められる支出」ですが、福利厚生として計上した支出が本当に経費にあたるのか、あるいは日常生活で発生したプライベートな支出なのかを区別することが困難なことがその理由です。
福利厚生費を計上するには、家族以外の従業員を雇用していることが条件となります。
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従業員がいる場合
従業員に家族以外の他人が含まれている場合は、条件を満たせば福利厚生費を計上できます。
たとえば、従業員同士の親睦を深める目的で食事会を開き、参加者全員の費用を会社が平等に負担する場合などは、福利厚生費の対象として見なされます。
この場合、従業員の中に家族が含まれていても、参加者全員に対して同様の条件で支出するものであれば、福利厚生費として認められる可能性があるのです。
福利厚生費として計上が認められる条件
福利厚生費としての計上が認められるためには、以下2つの条件を満たす必要があります。
すべての従業員に対して平等に適用されていること
1つ目の条件は「すべての従業員が利用できること」で、これを「機会の平等性」といいます。
たとえば、「役員しか利用できない」「正社員しか利用できない」などの利用条件を設定している場合は、福利厚生とは認められません。この場合は、かかった費用が給与の一部と見なされるため、本人の所得税の課税対象とする必要があります。
なお、正社員とアルバイトのように、働き方や役割の違いによって福利厚生の金額に差をつけることは基本的に禁止されています。待遇差が認められるのは合理的な理由がある場合のみで、たとえば同一労働同一賃金の観点から、正社員よりも勤務時間の短いアルバイトに対しては福利厚生費を少額にするという場合には、認められる可能性があります。
社会通念上妥当な金額の範囲内であること
2つ目の条件は、社会通念上、妥当と認められる範囲内の金額であることです。つまり、内容に対してあまりに高額な場合などは、福利厚生として認められません。
「社会通念上妥当」の判断基準として、国税庁では「4泊5日の社員旅行では1人10万円」「創業記念品の配布は評価見込額税抜1万円以下」としています。
どの程度の金額が妥当なのかは福利厚生の内容によっても異なるため、判断に迷う場合は税理士などの専門家に相談してみましょう。
個人事業主が福利厚生を導入するメリット
ここでは、従業員を雇用している個人事業主が福利厚生を導入する場合のメリットを3つ紹介します。
労働環境を整備できる
福利厚生を導入することで、労働環境の整備を実現できます。福利厚生であれば、給与・賞与とは別の形で従業員を支援できるためです。
たとえば、健康診断を実施することで従業員の健康管理・増進を促したり、社員旅行を企画することでモチベーションやエンゲージメントを向上させたりできるでしょう。このような取り組みが間接的に居心地の良さを向上させ、結果的に離職率の低下などにもつながる可能性があります。
節税につながる
福利厚生を導入することで、節税効果も期待できます。従業員のための支出が福利厚生費として認められれば、支出の一部または全部に対して税金がかからなくなるためです。
会社側は法人税などを節税でき、従業員側は所得税を節税できるため、双方にとって税法上のメリットがあります。
人材を確保しやすくなる
福利厚生を導入することで、人材を確保しやすくなる可能性もあります。求職者は福利厚生の内容や手厚さに価値を感じるだけでなく、企業が従業員を大切にしているかを見極める材料にもするため、応募の判断にも少なからず影響を与えるのです。
判断基準は福利厚生だけではありませんが、福利厚生に関心が高い求職者は多く、少しでも待遇が手厚い会社で働きたいと考えている人は決して少なくありません。
福利厚生を充実させることは、企業としての価値を高めるだけでなく、対外的なイメージの向上にもつながるでしょう。
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福利厚生として利用できるサービス
ここからは、福利厚生として利用できる具体的なサービスを4つ紹介します。
交際費・飲食費
条件を満たしていれば、交際費や飲食費を福利厚生として計上できます。交際費や飲食費が福利厚生として認められるかどうかは、相手が誰であるかによります。
たとえば、従業員同士の親睦を深めるために行われた食事会であれば、そこで発生した飲食費は福利厚生費として認められます。一方で、取引先との会食であれば、交際費として処理するのが一般的です。
通勤費
家族以外の従業員に支給する場合に限り、通勤費も福利厚生とすることができます。
ただし、計上できる金額には上限が設定されており、移動距離や通勤手段によって上限金額が異なる仕組みになっているため、詳しくは国税庁の情報を確認しましょう。
なお、1か月の定期代で支払ったり、1日ごとの往復交通費を計算して支払ったりなど、支給方法は各社が規定によって定めることができます。
社員旅行費
条件を満たしていれば、社員旅行費も福利厚生として計上できます。満たすべき条件は以下の4つです。
- 全従業員に参加資格があること
- 旅程が4泊5日以内であること
- 参加人数が全従業員の50%以上であること
- 旅費が妥当な金額であること
なお、上記の条件をすべて満たしている場合でも、事業主とその家族の分は福利厚生費として認められない点に注意が必要です。
健康診断費
労働安全衛生法により、事業主は雇用している従業員に対し、年に1回健康診断を受診させることが義務付けられています。健康診断にかかる費用は企業側が負担するのが一般的であり、これも福利厚生費として計上できます。
健康診断のオプション項目を利用する形で、「法定診断メニュー以外の項目を受診してもよい」というルールを設定することもできますが、この場合、全従業員が利用できるようにすることが条件となります。また、健康診断費もほかの福利厚生同様、事業主本人とその家族の分は経費として認められないため、注意が必要です。
マッサージ
従業員全員が利用できる契約形態であれば、マッサージの利用を福利厚生とすることもできます。
社内にマッサージ師を常駐させる方法や事業所に出張してもらう方法、契約している施設に行って施術を受ける方法がありますが、中小企業の場合は施設に行って施術を受ける方法が採用される傾向にあります。
スポーツクラブの利用費
マッサージ同様、従業員全員が利用できる契約形態であれば、スポーツクラブの利用費も福利厚生として計上できます。
ただし、従業員が個人契約して利用料も個人で精算する場合は、実費を会社から支給する場合であっても給与の扱いになり、所得税を課税する必要があるため注意が必要です。スポーツクラブの利用費を福利厚生にする場合は、契約形態を事前にしっかり確認しておきましょう。
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個人事業主も福利厚生を上手に活用しよう
家族以外の従業員を雇用している場合に利用できる、福利厚生。すべての従業員が平等に利用できるという条件に加え、社会通念上妥当な金額であれば、定められた範囲内の金額は経費として認められます。
福利厚生を導入することで、従業員の労働環境の向上と節税効果の両方が期待できるうえ、人材採用において有利に働く可能性もあります。福利厚生は導入するメリットが多いため、従業員を雇用している場合は、個人事業主であっても積極的に活用しましょう。
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