eディスカバリ(eDiscovery)とは?EDRMの流れや文書管理の考え方
電子情報の収集・分析、資料の作成・提出などの一連のプロセスをさす「eDiscovery」。グローバル化が進む現代において、eDiscoveryに関する知識習得の重要性が高まっています。本記事では、eDiscoveryとは何か?EDRMの流れなどとあわせて解説します。
目次
eDiscoveryとは?
eDiscovery(eディスカバリー)とは、アメリカの民事訴訟における「電子証拠開示手続」のことで、2006年12月の連邦民事訴訟規則の改正により導入されました。
連邦裁判所では、不開示特権などの対象物を除く当事者の請求・抗弁に関連するすべての事柄がeDiscoveryの範囲としており、非常に多岐にわたります。
eDiscoveryに含まれるものの具体例には、以下のようなものが挙げられます。
- Eメール
- Wordなどの文書ファイル
- シンプルテキストファイル
- インスタントメッセージのチャット
- プレゼン資料
- スプレッドシート
- CADデータ
- 画像データ
- バックアップデータ
- 各役職員のPCや外部記録媒体に保存された情報
このほか、日本に所在している本社のサーバー、さらには第三者が運営するデータセンターに格納された情報までもが対象範囲に含まれた事例も存在します。
日本におけるeDiscoveryの現状
eDiscoveryは、日本企業にとっては不利といわれています。ここでは、その主な理由を2つ見ていきましょう
eDiscoveryについての知識が不足している
日本では、まだまだeDiscoveryが浸透しておらず、知識や経験が不足しているのが現状です。
eDiscovery制度が適用されるのは、アメリカで起きた訴訟の対象となったすべての企業であり、アメリカ以外に拠点を置く企業にも及びます。そのため、データが国内のサーバーに保存されていても提出義務が課せられます。当然ながら、これらのデータは英語に翻訳したうえで提出する必要があり、翻訳コストも発生するでしょう。
アメリカの民事訴訟ではあえてこのような負荷がかかる要求をし、有利な条件で和解するのがひとつの戦略となっているという背景があります。
反トラスト法に違反する日本企業が続出している
日本における独立禁止法にあたる「反トラスト法」に違反していると指摘され、罰金を課される企業が続出しています。その多くはアジア企業であり、日本では以下のような企業が多額の罰金を課せられた事例があります。
- 西川ゴム工業:134億円
- 矢崎工業:4億7,000万ドル
- ブリヂストン:4億2,500万ドル
これらは、とくに金額が大きかった例ですが、細かいものまで含めれば数えきれないほどの事例が存在しています。
反トラスト法は先に訴えを起こした側に減免措置が適応され有利になるという特徴があり、競合の機密情報を入手することで芋づる式に訴訟が増えていく傾向にあります。
eDiscoveryの基本となるEDRMとは?
eDiscovery対策の基本として知っておくべき要素に「EDRM」があります。EDRMとは、The Electronic Discovery Reference Modelの略で「電子情報開示参考モデル」を意味する世界標準のワークフローです。
EDRMは、以下の9項目で構成されています。
- 情報管理:平時から行われている電子データの管理
- 特定:関連情報になり得るデータの場所を特定
- 保全:データの改ざんや削除から保護する
- 収集:対象となるデータの収集
- 処理:重複データの削除やファイルの分類
- 審査:処理されたデータを法務担当や弁護士が審査
- 分析:内容を評価し開示すべきデータかを吟味する
- レポート作成:定められた提出形式に沿ったレポートを作成
- レポート提出:作成したレポートを自社の主張や立場を裏付ける資料として提出
EDRMの流れ
EDRMの具体的な流れを大きく4つのステップに分けて解説します。
情報の管理・特定
情報の管理とは、通常の業務で行っている電子データの管理を指します。日本企業では、メールやドキュメントを属人的に管理しているところが多く、eDiscoveryの費用や手間を増大させる要因となっています。そのため、平時からデータをどのように保存し管理していくかということを明確にしておきましょう。
また、eDiscoveryが適用された場合、証拠となる情報がどこに保管されているのかを特定する必要があります。該当のデータを保存している関係者は証拠を変更・削除・破棄せずに保存しなければならないためです。
まずは事件の事実関係を確認するとともに、利害関係者たちからヒアリングを行うなどして、保存すべきデータを特定する必要があります。
該当のデータが特定できたら、情報管理者にデータに一切手を加えずに保存しておくよう通知します。
情報の収集・保全
続いて、該当するデータを収集し、変更・削除・破棄されないよう保全を行います。
データを収集する方法はさまざまですが、データの作成日・サイズ・ログなどのメタデータを変更せず、収集後も改変や削除がされないよう確実に保全する必要があります。
個人が使用している端末にしか該当データが保存されていない場合は、それらの端末を回収してデータを収集する必要があるでしょう。
情報の処理・分析
該当するデータの収集・保全が完了したら、それらのデータに必要な処理を加えたうえで分析を行いましょう。
具体的には、重複データの削除、ファイルの種類による絞り込み、必要に応じて所定のフォーマットへの変換・形成などを行います。
その後、法務担当者や顧問弁護士による審査を受け、議論されている内容などと照らし合わせながら、開示すべきデータと開示不要なデータに振り分けます。
レポートの作成・提出
最後に、開示すべきと判断したデータを提出形式にそったフォーマットでレポート化して提出します。
このような適切なステップを踏むことで、公聴会や公判などの場において、自社の立場や主張を裏付ける資料としてeDiscoveryのレポートを作成・提出できるでしょう。
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eDiscoveryソフトウェア導入のメリット
eDiscoveryの手順は理解していても、実際の作業には多大な時間やコストを要します。そこで注目を集めているのがeDiscoveryソフトウェアです。
ここでは、eDiscoveryソフトウェアを導入する3つのメリットを紹介します。
情報収集・分析を効率化できる
eDiscoveryソフトウェアを導入することで、社内のあらゆるデータ・コンテンツを収集し、一元化できます。そのため、EDRMを行う際の情報収集や分析が効率化できる点がメリットといえるでしょう。
本来であればデータを収集・分析するために該当する拠点にスタッフを派遣したり、端末を回収したりといった手間が発生しますが、ソフトウェアを活用すればこのような手間がなくなります。
また、キーワード検索やドキュメントの属性によるフィルター機能が搭載されているものであれば、データを一つひとつ確認する作業も軽減されます。
膨大なデータの収集・分析がショートカットできるというだけでも、eDiscoveryソフトウェアを導入する価値があるといえるでしょう。
安全対策を強化できる
データの保全における安全対策を強化できる点も、eDiscoveryソフトウェアを導入するメリットです。
eDiscovery対策で最も回避したい事態のひとつとして、データの変更・削除・破棄があります。故意でなかったとしても、要求されたデータを提出できなければ証拠の隠蔽と見なされる場合があるためです。
ソフトウェアを使えば該当のデータやコンテンツに対して強固なアクセス制限をかけられるため、このような不測の事態を未然に防げるでしょう。
訴訟の備えとなる
訴訟に対してスピーディーに備えられるのもeDiscoveryソフトウェアを導入するメリットです。
eDiscoveryソフトウェア導入済みであれば、訴訟の可能性が判明した時点で素早くデータの収集・保全を行えるほか、一元管理した証拠データへのアクセスも容易です。
訴訟においてはスピードが裁判の有利・不利を分けるケースが多々あるため、このようなスピーディーな対応は判決を有利に運ぶ一助となる可能性があります。
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eDiscoveryソフトウェア導入のデメリット
eDiscoveryソフトウェアを導入するデメリットは、情報漏洩リスクがあることです。とくにクラウドで動作するソフトウェアの場合は、セキュリティ対策に十分注意する必要があります。
万が一、情報漏洩が発生してしまった場合は、従業員や顧客の個人情報や自社のノウハウ・知的財産などが開示される可能性があります。その結果、調査に壊滅的なダメージを与えるだけでなく、企業の信用問題にまで発展しかねません。
eDiscoveryソフトウェアは、使いやすさや自社のシステムとの互換性も重要ですが、適切なセキュリティ管理が行われているものを選択することが重要です。
eDiscoveryへの理解を深め適切な文書管理をしよう
アメリカの民事訴訟における「電子証拠開示手続」を意味するeDiscoveryは、アメリカの制度であるものの、訴訟対象はアメリカ本土以外に拠点を置く企業も含まれ、日本も例外ではありません。
eDiscoveryの概要や対処方法、ワークフロー「EDRM」などへの理解を深め、平時から適切な文書管理を行い有事に備えましょう。
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