中小企業に連結決済の義務はある?メリットやデメリットについて解説
上場企業などに義務付けられている「連結会計」。親会社が支配従属関係にある企業を含めた経営状況を報告する会計手続きですが、中小企業に連結会計を行う義務はあるのでしょうか。本記事では、連結会計の注意点や、中小企業にとってのメリット・デメリットを詳しく解説します。
目次
連結会計とは?
連結会計とは、親会社と子会社といった支配従属関係にある複数の企業をひとつの組織とみなし、財務や経営の状況を報告する会計手続きのことです。
もし、連結会計を大企業に義務化しない場合には、不良在庫を子会社に買い取らせたり、株式の保有状況を都合のよい数字に偽装することが可能となってしまいます。しかし、連結会計によりグループ全体の実態を明瞭化すれば、こういった抜け穴を塞ぐことが可能となります。
こういった背景から「上場企業等で子会社のある会社」に対しては、連結会計が会社法で義務付けられています。
▷連結決算とは?対象となる企業や手順・連結財務表の種類について解説
連結会計は「資本金5億円以上または負債額200億円以上の企業」が対象
連結会計が義務付けられる条件は「資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の企業」と定められています。
これらの基準が適応されるのは、前事業年度の最終日における賃借対照表であり、有価証券報告書を提出している企業のみです。つまり、ほとんどの中小企業には連結決算を作成する義務はありません。
[参考 : e-gov 法令検索「会社法(平成十七年法律第八十六号)」より]
中小企業には連結会計の義務はない
中小企業に連結会計の義務はありませんが、任意で導入することは可能です。
例えば、親会社と子会社間や子会社同士での取引が多い場合には、連結会計を行うことで、グループ全体の事業シナジーを把握するために役立ちます。また、企業全体の会計レベルを向上させ、経営意識を高める効果も期待できるはずです。
業種ごとに中小企業の定義は異なりますが、連結会計は経営を強化する手段としても検討する価値があると言えるでしょう。
中小企業が連結会計を行うメリット
中小企業が連結会計を導入することには、多くのメリットが存在しています。具体的なメリットについて、詳しく解説します。
企業全体の経営状況を把握できる
連結会計を導入すれば、親会社や子会社を含めた企業全体の経営状況を一目で把握できるようになります。
これにより、各企業単体の業績だけでなく、グループ全体の経営状況を総合的に評価することが可能です。とりわけ、複数の事業を展開している場合、連結会計は事業間のシナジーやリスクをより正確に把握でき、今後の経営戦略を立てる際に非常に有効なツールとなるでしょう。
企業内部の不正行為を防止できる
連結会計を導入すると、企業グループ全体の財務状況が透明化されるため、内部的な不正行為の防止が期待できます。
例えば、親会社と子会社間での不適切な資金移動や、架空取引のリスクなどを低減できます。また、連結会計により管理体制が強化されれば、自然とコンプライアンスの向上にもつながるでしょう。
銀行融資を受ける際の手続きがスムーズになる
連結会計を導入すると、企業全体の経営状況を客観的に確認しやすくなるため、銀行から融資を受ける際の手続きがスムーズになります。
その結果として、融資条件が底上げされるといった形にて、企業の資金調達能力を向上させる効果も期待できます。
▷【2024年最新】連結会計システムおすすめ11選比較|機能や選定のポイント
中小企業が連結会計を行うデメリット
中小企業が連結会計を導入するデメリットは、手間と時間がかかることです。
親会社と子会社のデータを統合して適切に処理するためには、専門的な知識やシステムが必要であり、経理部門の負担が大幅に増加します。また、定期的な情報の更新や確認作業も発生するため、経理部門のリソースを消耗する可能性があります。
このため、中小企業が導入する際には慎重な判断が求められるでしょう。
中小企業における連結会計の流れ
中小企業における連結会計の流れを、以下に解説します。連結会計の導入作業をイメージする際の参考としてください。
各企業の個別財務諸表を作成する
連結会計を始めるには、まず各企業の個別財務諸表を作成する必要があります。
ただし、子会社の財務諸表を合算しても整合性が保たれるように、あらかじめ会計方針を統一しておくことが肝心です。
もちろん、各企業の事業内容がバラバラである以上は限界はあるものの、できる限り会計区分をグループで統一しておくと、後の集計作業が大きく簡略化されます。
全企業の財務諸表を集計する
各企業の個別財務諸表の作成が完了したら、それらの統合作業に移ります。
連結会計において、親会社と子会社間の取引や債権債務を相殺することを「内部取引の消去」と呼び、二重計上を防ぐための重要なステップです。もし、設立間もない新子会社であれば、創業時に発生する「のれん」の償却なども必要となるでしょう。
連結修正仕訳を行う
各企業の営業成績や財務状況を合算するためには、連結修正仕訳が必要です。
連結修正仕訳は帳簿には現れない会計であるため、翌年以降の個別財務諸表には残存しない内容です。つまり、事業年度ごとに過年の連結修正仕訳を振替えしなければなりません。
「資本連結」と「成果連結」に大別される修正仕訳の内訳について、以下に解説します。
資本連結
資本連結とは、企業グループによる株式の持ち合いを把握し、グループ全体の資本構成を適切に表現するための調整です。
「親企業が持つ子会社株式」と「子会社株式の株主資本」を相殺する必要があり、相殺によって生じた金額は「のれん」として振替計上されます。
また、配当金が発生した場合にも、子会社から親企業への支払いは相殺し、非支配株主への支払いは非支配株主持分当期変動額へと計上し直す必要があるでしょう。
成果連結
成果連結とは、グループ内の取引を相殺消去することで、内部取引高や債権債務を正しく把握するための処理工程です。
例えば、グループ間の取引に貸倒引当金が存在する場合では、内部取引の相殺消去と帳尻があうような修正仕訳が必要となるでしょう。
また、棚卸資産や固定資産売買による損益に対しても、グループ外企業へ売却されるまでは未実現損益として修正仕訳を行います。
連結財務諸表を作成する
連結財務諸表を作成する際には、複数の書類が必要となります。一般的に求められる書類の種別について、詳しく解説します。
連結貸借対照表
連結貸借対照表とは、グループ全体の資産、負債、純資産などをまとめた表です。
「全部連結」と「持分法」の2つの作成方法があり、全部連結では親会社による事実上の支配力がある場合に限り、グループ企業のの財務諸表を合算し、非支配株主持分を控除する必要があります。
一方の持分法では、親会社から一定の影響を受ける関連会社のみが、親会社の株式比率に相当する損益のみを計上する方法です。
連結損益計算書
連結損益計算書とは、グループ全体の収益や費用、最終的な利益をまとめた報告書です。
企業グループ全体の営業成績、経営活動の成果を一目で把握できる点が特徴であり、内部取引の相殺などを行うことで、実際の収益状況を正確に反映させることができます。
また、逆に未実現損益などの消去を行うことで、単体の損益計算書では表現できなかったグループ全体の損益を正しく計上できるようになります。
連結株主資本等変動計算書
連結株主資本等変動計算書とは、連結貸借対照表に記載された「純資産の部」の期初から期末にかけての1区間のみの変動をまとめた書類を指します。
その目的は、グループ内の全企業の資本金や剰余金、新株予約権などを明らかにすることで、グループ全体の資本の流れを漏らさず把握することです。
記載方式は企業が任意に定められますが、株主資本と評価・換算差額等で記述が大別されます。また、新株予約権の発行による増資を行った場合にも記載が求められます。
連結キャッシュフロー計算書
連結キャッシュフロー計算書とは、グループ全体の資金の流れを示す報告書です。
「原則法」と「簡便法」の2つの作成方法があり、 原則法はグループ内の各企業がそれぞれ作成したキャッシュフロー計算書をシンプルに合算する方法です。
一方の簡便法は、期首と期末の資金残高の増減を、連結貸借対照表と連結損益計算書から算出することで、連結キャッシュフロー計算書を作成する流れをとっています。
多くの企業では、相殺などの手間がかからない簡便性を採用しています。
連結附属明細表
連結附属明細表は、連結財務諸表に対する補足情報を提供するための明細表です。
いくつかの種類があり「社債明細表」、「借入金等明細表及び資産除去債務明細表」といった名目にて、グループ全体をひとつの企業とみなした際の補足情報を株主や投資家に伝えるための書類です。
中小企業者が連結会計をする際の注意点
中小企業が連結会計を行う際の注意点として、連結財務諸表の作成には会計監査人の監査が必要となる点が挙げられます。
監査には時間や費用がかかるため、中小企業にとっては大きな負担となる場合もあるでしょう。また、監査過程では財務管理の厳密さが求められるため、内部体制の強化や事務作業の増加を想定しておく必要があります。
はじめて監査を受ける際には、大抵は何らかの指摘とその訂正が必要となるため、不可避のコスト増として事前に事業計画に織り込むことをおすすめします。
連結会計のメリットを理解し中小企業も実施を検討しよう
連結会計は、企業グループ全体の経営状況を明確に把握できるだけではなく、内部取引の透明化や不正防止、さらには融資条件の向上にも役立ちます。
その事業シナジーや経理の効率化は、中小企業にとっても大きな経営改善となることが期待できます。もちろん、導入には手間とコストが伴いますが、順調に成長した企業はいずれ義務化される作業ではあるため、準備として導入を検討するのもよいでしょう。
自社の状況に合わせて、連結会計の実施を前向きに考えてみてはいかがでしょうか。
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